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10.きゅうりウォーズ(14)

 トールが着いて10分ほど経った後、それでも待ち合わせ時間よりは早い時間にロルウは現れました。

ロルウもまた見た目は普通の格好で、すごい装備を想像していたトールは少し拍子抜けしてしまいました。

それから挨拶出来る距離にまで近付いたところでトールの方からロルウに声をかけます。


「こりゃもうすっかり俺はロルウのバディだね」


「やばくなったらちゃんと逃げてくれよ…安全は保証出来ないぞ」


「そりゃ当然だよ、でもお前がもし危険な目に遭っていたら出来るだけ助けるから」


 ここでトールは思いっきり強がりを言ったつもりでした。

普通に考えて現役の諜報員として訓練や実戦経験を積んで来たロルウよりトールの方が有利になる状況なんてあり得ないでしょう。

そんなトールの言葉の意味を知ってか知らずかロルウから返って来た言葉は少し辛辣なものでした。


「僕はエリートだからまずそんな目に合わない。って言うか君が危険な目に遭っても余程の事がない限り僕は見捨てるから」


「うわっ!酷っ!俺ら親友じゃんか!」


 見捨てると聞いてトールは過剰に反応します。

けれどそのオフザケにロルウは乗ってくれませんでした。

それどころかもっと辛辣な言葉でトールに追撃します。


「いや君はただ僕にくっついてくるストーカーだよ?」


「その割にいつも俺の話に付き合ってくれてるけどね」


 ストーカーとまで言われてついトールは素で反応しました。

何だかんだ言ってやっぱり2人は仲良しなのです。


 そんなやり取りをしている間に段々と地元の組織の支部に近付いて来ました。

どこで手に入れたのかロルウはこの施設の見取り図を手にしています。

ある程度近付いた所でその見取り図を広げ今日の行動の段取りを確認します。


「まずは…」


「よくそんな見取り図を手に入れられたな…流石は諜報員」


「それよりちゃんと見て、この場所が怪しいんだ」


「ほうほう…確かにその場所、図には何も描かれていないね」


 ロルウが広げて見せてくれた施設の見取り図には何も詳細が書かれていない場所がいくつかありました。

それは誰が見てもここは怪しいと言わんばかりの雰囲気を醸し出しています。

トールも見せられた見取り図を見てその場所は怪しいとひと目で気付きました。


「じゃあどこから侵入しようか」


「え?普通に正面からでいいでしょ、俺達はただのお客さんなんだから」


 ロルウは諜報員らしくこっそりと施設に進入するつもりでいるようでしたがトールは正面突破を提案しました。

いつも誰にも気付かれないように行動するようにしていたロルウはこの言葉に衝撃を受けます。


「君は結構度胸があるんだな…」


「だって俺らは見た目ただの学生だよ?普通にしていれば絶対怪しまれないって」


 考えてみればトールの意見ももっともです。

普通にしていればきっと怪しまれない…学生である今の身分を最大限に利用しようと言う作戦です。

けれどそこでその作戦の問題点に気付いたロルウはトールに突っ込みました。


「こんな組織に興味を持つ学生が普通?」


「だ、大丈夫だよ多分…」


 確かにこんな世間一般には殆ど知られていない組織に興味を持つ学生なんてまずいません。

だからそう言うのに興味を持つと言うだけで逆に怪しまれる可能性だってないとは言い切れません。

けれどそこで不安になっておどおどしてしまっては最初から何も成功しないでしょう。

だからトールは自分に暗示をかけるように大丈夫だと強気で言い張りました。

結局その勢いにロルウも折れ、その案で行く事に決定します。


 そんな訳でトール提案の一般の客さんを装っての作戦が始まりました。

色々不安要素はあるものの、一般人相手なら組織も危険な事はしないはずです。

トールもロルウも緊張と不安の中でついにその一歩を踏み出しました。


 聖なる緑の後継者…。表向きは過去から続く偉大な神聖文明の後継者を名乗る団体。

世間一般的に言う新興宗教団体のような存在に思われがちなものの実は宗教団体ではありません。

何故かと言えばそもそもこの組織、何かを崇める団体ではないからです。勿論主宰神も聖地も教祖もいません。

組織としての代表者はいますが…ってそれは当然ですね。


 この組織の多くの部分は自らが宣伝しない事もあって謎に包まれています。

何故そんな団体に人が集まっているのか…噂では仲間内だけに通じる隠されたネットワークがあるとかないとか…しかし真偽は分かりません。


 この街にあったこの組織の支部は割とこじんまりしているものの学校の体育館程度の大きさはありました。

入り口から堂々と入った2人でしたが真っ直ぐ前を見るロルウについ辺りをキョロキョロ見てしまうトールと行動は見事にバラバラです。


「おい、普通にしていれば怪しまれないんだろ?普通にしろよ」


「そうは言っても色々気になるじゃんか…見た目全然怪しくないのが逆に怪しい…ような?」


 宗教施設ならシンボリックな建物だったりマークがあったりその宗教らしさは施設からも滲み出たりするものですが、この組織はそう言った類の装飾等はなく、見た目は普通の建物とその庭園と言った風な佇まいをしていました。

だからこそ冷静に行動出来るロルウと逆に怪しむトール…本当に対照的です。


 そんな2人が突然アポなしで入って来たので普通は警戒のひとつもしそうなものですが、施設の誰もそれを気に留めている風でもなく、特に何の障害もなく彼らは支部の建物に入る事が出来ました。

入ってみると施設自体は割と新しくて何だかすっきりした印象を持ちました。

それから施設内は思ったより静かで人の気配は殆どなく、逆にトールはそれを少し怖く感じます。


 入ってすぐの場所には受付があり2人はこの組織に興味を持った少年2人と言う設定で施設の見学を申し込みました。

実際この施設に興味を持っている事自体は本当の事なので会話も特に不自然になる事はありませんでした。


「あの…」


「はい、今日はどう言った御用件でしょうか?」


 受付のおねーさんは結構な美人さんでした。

見た目だけでもかなり知的な雰囲気を漂わせています。

突然の来訪者である少年2人に対しても特に動じる事も見下す事もなく冷静に対応してくれました。


「あの…ここの見学をしたいんですけどいいですか?」


 最初に切り出したのはロルウでした。

トールはと言えばこう言う事に不慣れな事もあってもじもじして何も喋れずにいました。

ロルウの話を聞いて受付のおねーさんはその言葉が意外だったのかつい聞き返してしまいます。


「えっ?」


「見学ってやってません?」


「えぇと…少々お待ちください…」


 聞き返されたロルウは念を押すようにもう一度言い直しました。

見学を受け付けていないなら計画は最初から練り直しです。

2人は突然襲いかかって来たこのアクシデントに思わず固まってしまいました。

 

 その後、やっと話が飲み込めたのか受付のおねーさんは2人を待たせてどこかに行ってしまいます。

なのでその間2人は誰もいない入り口ホールで取り残された格好になりました。

この様子を見てトールは思わずロルウに話しかけます。


「やっぱアポなしはまずかったかな?」


「取り敢えず待っていようか」


 それからしばらくして受付の人に連れられて担当者らしき人が現れました。

担当の人は実に普通の身なりでどこか頼りなく見えるくらいです。

受付のおねーさんは2人に近付くと担当の人を紹介して後をその人に任せました。


「お待たせいたしました。それではこちらの担当、エンドーの指示に従って見学を始めてください。本日はご来訪有難うございます」


「あ、はい」


「では、行きましょうか」


 担当のエンドーと言う人に連れられて2人は施設内部をじっくりと観察し始めました。

色々見て回りながらその都度エンドーさんから説明を受けます。

その語り口調は実に分かりやすく洗練されていて結構こう言う見学は多いのかも?と思わせるくらいでした。

エンドーさんは最初の見た目こそ頼りない雰囲気でしたが、実際の見学に関しては実に模範的な仕事をしています。


「…と、言う感じで私達は偉大な過去の文明との邂逅を果たし、その研究に一生を捧げる誓いを立てたのです」


 つまりこの話の通りだとするなら聖なる緑の後継者の実体は研究団体と言う事のようです。

どこかのきゅうり文明の遺産の壁画を見て代表者が天啓のような衝撃を受け始まったのだと…。

組織の始まりは今から約30年前…始めは理解してくれる人が誰もいなかったのだそうです。

それから代表者の尽力で徐々に賛同者が増えやがて各地に支部が出来るほどまでになったと言う事でした。


 エンドーさんの説明によれば施設の各部屋は基本的に研究室のようです。

研究者の息子で実際にセンサーの開発が趣味のトールも諜報員で遺跡の研究の仕事もこなしていたロルウも各部屋の説明などにいつの間にか結構ノリノリで興味を示していました。

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