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10.きゅうりウォーズ(6)

 トールがいきなり話を切り出したのでロルウは彼の方を向きます。


「何?」


「宇宙船…あの辺り調べたけど何もなかったらしいんだけど、今どこに住んでんの?」


「何?遊びに来たいの?」


 宇宙船の話を切り出したトールに対してロルウはそう言って少しいやらしそうに笑いました。

変に勘違いされてはたまらないとトールは思わず焦って返事してしまいました。


「そ、そんなんじゃ…」


「何だ…残念だなぁ。その気なら招待しようと思ったのに」


「絶対嘘だね」


 これがロルウなりの冗談だと言う事は彼の表情と口調ですぐ分かりました。

冗談には冗談とトールもふざけ気味に返事をします。

この会話の後、ロルウはこの話題を終わらせようとひとこと言いました。


「どこに住んでいたってこうして学校で会えるからいいじゃん」


「逆に学校以外の行動が謎過ぎなんだよ」


「学校外まで拘束される筋合いはないからね」


 この突っ込みに対するロルウの言葉にトールは少しカチンと来ました。

自分がロルウを拘束しているだなんて…そんな風に思われていただなんて。

トールはそう思われていたと言うのが残念でつい感情を表に出して反論していました。


「何だよそれ。まるで今は拘束されているみたいじゃないか」


「この状況はある意味拘束だと思ってるよ」


「別にそんなつもりじゃ…」


「じゃあどんなつもり?」


 ロルウにそう追求されてトールは返事に詰まってしまいました。

そのトールの様子を見てにやりと笑うロルウ。

口喧嘩ではやはりロルウの方が一枚上手のようです。

しばらく返答に頭をフル回転していたトールはやがてある事実に気付きました。


「って言うか嫌なら拒否出来るだろ?」


「まぁね」


 核心に辿り着いたトールの答えに対しロルウはそう言って笑いました。

結局はロルウがただトールをからかっていたと言うだけのようです。

澄んだ青空に流れる雲を目で追いながらロルウは続けます。


「あ~空気が気持ち良いなぁ。青空って最高!」


「そこは俺もそう思う」


 このロルウの意見にトールは同意しました。気持ちのいい時間が過ぎていきます。

得てしてそう言う時間と言うのはあっと言う間に過ぎるものです。

何も会話しなくても誰かといるだけで何となく満たされている…2人はいつの間にかそんな関係になっていました。

その2人の間を風は静かに吹き抜けていきます。

トールとしてはその後も色々話をして少しでも情報を引き出せれば良かったのですが、うまい切り出し方を思いつけずに結局時間だけがさらさらと崩れ落ちる砂時計のように過ぎて行きました。


 キーンコーン…。


「じゃあ、戻るか」


 いつものようにロルウは昼休み終了のチャイムが鳴った瞬間にそう言うとさっさと教室に戻って行きました。

トールはこんな平和な時間がずっと続いて欲しいと思いながらワンテンポ遅れて屋上を後にしました。


 昼過ぎからの授業は眠くなります。当然ですね。

トールも普段なら強烈な眠気と壮絶なバトルを繰り広げるのですが今日は違います。

何せ午後の授業が終われば放課後になりますから。

授業が全て終わってから始まる渾身のプロジェクトの事を考えれば全然眠くはならないのでした。

ま、眠くならないと言うだけで、だから授業に身が入るかと言えば全然そんな事はないのですが。

トールは燃える熱意を胸に秘め、その瞬間を待ち焦がれました。


「決戦は放課後だ…!」


 やがて時間は過ぎて全ての授業が終わり放課後になりました。

放課後になった瞬間、ロルウは素早く教室を出ます。

その早さはクラス1、もしかしたら全校でも1番かも知れません。

そんなロルウを追いかけるのにいつも自分の下校準備がもたついていたからから今までトールは彼の追跡に失敗していたのでしょう。

しかし今日のトールには余裕があります。放課後のチャムが鳴った瞬間、設置した全てのセンサーとドローンを起動させます。

そうして今日一番の大プロジェクト、ロルウ追跡大作戦が始まりました。


 トールはスマホのアプリを起動して追跡センサーの稼働状況を確認します。

画面には確かにロルウの足跡が記録されていました。


「おし!」


 センサーは順調に稼働しているようです。

トールは思わず声を出して小さくガッツポーズをしていました。


「何やってんの?新しいゲーム?」


 トールが画面を見ながら興奮していたのでまだ教室に残っていたクラスメイトが興味を持って集まって来ました。

クラスメイトに真実を話しても信じてくれそうにないと思ったトールは必死に誤魔化しました。


「いや、最近作ったセンサーのチェックをしてるだけ」


 トールはそう言ってスマホの画面を見せました。

素人目にその画面は簡単な図形と数字と記号が表示されているだけにしか見えません。

そう、実際はロルウを尾行しているとは言え画面の動きはセンサーチェックをしているのと全く同じなのです。


「何だよそれ。相変わらず変わってるな。みんなみたいにゲームしようぜ」


「今はゲームに興味ないんだ。これが楽しくてさ」


「そっか、じゃ、またな」


 その画面を見たクラスメイトは興醒めしてトールから離れて行きました。

クラスメイトが興味を持つとは想定外でしたがうまく誤魔化せてトールはホッとしました。


(寄って来たのがゲームにしか興味を持っていない奴で良かった…)


 トラブルをひとつ回避出来たところでトールは改めて画面をチェックします。

ロルウは既に校舎に設置したセンサーの範囲外にまで移動していました。


(流石に早いな…そんなところでドローンの出番だぜ!)


 ロルウを感知したドローンは彼を追いかけて自動的に追跡を開始します。

トールもいつまでも席に座っている訳にも行かないのでそろそろ下校する事にしました。


 ロルウを追いかけるドローンは彼に気付かれない距離を絶妙に保ちながら追跡を続けます。

その足跡を表示する画面をチェックしながらトールも追いかけます。

表示されたロルウの足跡はある目的地に向かって一直線に向かっているようでした。

きっとその先にロルウの正体に繋がる手がかりのひとつがあるとトールはにらみます。


「今日こそは突き止めてやるぜ!」


 しかしロルウの速さはまるで何かの乗り物に乗っているかのようです。

ドローンは最大時速60km出るように設計しているのですが、ロルウの移動速度はそのドローンが最大速度を出してようやく追いつく程のスピードなのです。


 ぜぇぜぇ…はぁはぁ…。


 トールは走って追いつこうとするのですが普段からインドア派の彼は10分も走らない内にバテてしまいました。

自分の体力の無さを彼が嘆いたのはこの時が初めてだったかも知れません。


「自転車でも用意しておけば良かった…」


 物事って困難にぶつかって初めて対抗策って思いついたりするものですよね。

ま、自転車でも時速60kmなんてまず普通の人は追いつけはしませんけど…。

そんな訳でトールは肩で息をしながら画面をチェックします。

あんなスピードで移動していたならもう目的地についてしまっているかも知れません。


「…な、嘘…だろ?」


 ロルウの位置をチェックしようと画面を覗いたトールはその表示位置に愕然としました。

何故ならそこはトールもよく知っている場所だったのです。

しかしそこにロルウが行くなんて…トールにとってその場所は全くの想定外でした。


 モニターが表示したその場所は父親も勤務するあの研究所でした。


 研究所は対きゅうり戦用に軍事技術の研究もなされています。

考えてみればきゅうり軍の諜報員であるロルウがそこに潜入していたとしても何ら不思議ではありません。

事態の緊急性を考えたトールは研究所に行く為にバス亭を探します。

バスは20分に一回の間隔で走っています。今のトールはその20分ですら長く感じました。


「はぁはぁ…えっと、バスは…う…後17分も待たないと…」


 トールがバス停を見つけた少し前にバスは通り過ぎていたようです。

仕方ないのでバスを待つ間もう一度スマホの画面をチェックします。


「し、しまったぁ!」


 画面をチェックしたトールは思わず叫んでしまいました。

機密保持の為に研究所の敷地内にドローンが入れない事をすっかり忘れていたのです。

これを破ると犯罪行為となり捕まってしまいます。

捕まらないように法律を守ってドローンを作った事が逆に足かせになってしまいました。

しかも自慢のセンサーも研究所の敷地内では使用出来ません。理由は同じく機密保持のためです。

ロルウがここに入る事まで事前に想定していたなら父親に相談して便宜を図れたかも知れないのですが…。

やはりここでもトールの詰めの甘さが露呈する結果となってしまいました。

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