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10.きゅうりウォーズ(5)

 そんなトールの気持ちを知ってか知らずかロルウは視線を頭上に移します。

そこには澄み切って気持ちの良い青空が広がっていました。


「あぁ…空が綺麗だなぁ…僕は大空って言うのに憧れていたんだ」


「ずっと宇宙船で暮らしていたんだっけ?」


 青空に憧れる感覚…ずっと宇宙で暮らしていたらそうなるのかも知れません。

ロルウの何気なく漏らしたその一言にトールは初めて少しだけ同情しました。

何故ならトールは青空がとても好きだったからです。

ずっと曇りの日が続くだけで気分がとても落ち込んでしまうほどです。

トールが同情の視線をロルウに注ぐと彼はここに来る以前の事を話し始めました。


「船が旅立ったのが200年前だからね…それ以前は適当な星で暮らしていたらしい」


「何でその星で満足出来なかったんだよ」


 ロルウのこの告白にトールは思わす突っ込んでしまいました。

それまで暮らしていた星があったって…きっと誰もが突っ込むところでしょう。

その突っ込みは織り込み済みなのかロルウはテンションを変えずに話を続けます。


「環境が合わなかったんだ…それに最初から母星に戻るつもりだったから」


「戻ったら猫が支配していて驚いたろ」


「まぁね」


 トールの突っ込みにロルウは軽く笑いました。

その笑顔を見た時、彼はそんなに悪く無い奴かもって思うのでした。

ここできゅうりの笑顔って何やんって突っ込みは野暮ですよ。

ロルウに親しみを覚えたトールは彼の任期について聞いてみました。


「ロルウはこのままずっとこの学校にいるつもり?」


「報告義務もあるけどまぁ一年くらいはね」


「じゃあ少なくともそれまでは襲撃はない訳だ」


 スパイが報告を持ち帰るまでは敵側も動かないだろうと考えてトールはそう言いました。

けれどその言葉に対してロルウは真面目な顔をしてこう答えます。


「いや、それは分からないよ…そう言う行動を決定する上層部がどう判断するか」


「そこはお前の権限で何とかしといてよ」


「君も言うようになったね」


 トールの突っ込みにロルウはそう言ってまた笑いました。

最初、トールはロルウに対して敵対心しかなかったのに段々と打ち解けあってきているようです。

少し前まで警戒しながら話をしていたのに今では気楽なテンションで彼と話せるようになっていました。


「でもアレだよ、ロルウがこの星を気に入ってくれたのはちょっと嬉しい」


「当たり前だろ?ここに戻る為に長い旅をして来たんだ」


「どうにか分かり合えないかな…」


 会話の流れの中でトールはポツリとそう漏らしました。

そうして少しの間沈黙が流れます。


「お互いがそう言う態度になったなら」


 その沈黙の後、ロルウもまたそう答えます。

彼もまた戦争は望んでいない事をその一言でトールは感じ取りました。


「でも…もう血が流れてしまったから…」


 それでもきゅうり軍が地上を焦土にした事はもう取り返しがつきません。

きゅうり軍もまたケビン博士の兵器に攻撃を受けた事を水には流せないでしょう。

一度でも血が流れてしまえば平和的解決への道は遠くなります。

それはお互いが感じている重い足かせにもなっていました。


 キーンコーン…。


「さて、教室に戻ろうか」


「そうだね」


 話の最後こそ重い話題になってしまいましたが、連日のやり取りでいつしか2人は奇妙な友情のようなものを感じ始めていました。

今後、2人がもっと仲良くなれば最悪の事態は回避出来るでしょうか?

それとも2人の友情に関係なく結ばれた絆は無残に引き裂かれてしまうのでしょうか…。

まだ今の段階では先の事は全く予想もつかない事なのでした。


 トールのもう一つの日課、放課後のロルウ尾行は今日も飽きる事なく続けられています。

しかし今のところ一度も成功はしていません。

毎日色々と方法を変えてはみているのですが敵の方が一枚も二枚も上手のようです。


「今度は最初からここにセンサーを仕込んで追跡出来るようにしよう…」


 今日も尾行に失敗したトールは反省点も含め明日の為の作戦を練るのでした。


 家に帰ったトールはロルウとの会話で得た情報を逐一父ウル博士に報告しています。

ウル博士はトールの話をいつも興味深く真剣に聞いてくれました。

博士の専門は危機管理部門なのでトールの話は結構参考になるのです。


「でも父さんは本当に上の方にこの事を報告しているの?」


「ん?どうした急に」


 息子からの突然の質問に博士は少し驚きました。

今まで親子の会話でこう言う展開になる事はあまりありませんでしたから。

それだけトールも父の事を信頼していたと言う事にもなるのですが…。

トールの中に生まれた疑問を彼はどうしても確かめたくなってしまったみたいです。


「だってロルウはその後も普通に学校に来ているよ?普通捕まえたりするものじゃないの?」


「報告はしているんだが…多分扱いに困っているんだろうな。色々難しいんだよ」


 この質問に博士ははっきりしない返事を返します。

この返答でこの問題は単純な問題ではない事をどうにか理解して欲しい様子…。

トールもその空気を読んで今度は質問を変えてみる事にしました。


「そう言えば宇宙船はあれから見つかった?」


「いや、あの後軍や警察が調べたけれどまだ何も発見出来ていないらしい…」


「何だかもどかしいね」


 はっきり目の前に敵がやって来ているのにどうする事も出来ないなんて…。

きっとトール以上にウル博士も歯痒い思いをしているに違いありませんでした。

そう言う事もあって博士はトールの肩を叩いて激励します。


「だから今はお前の活躍だけが頼りなんだ。悪いけどこれからも色々と聞き出して欲しい」


「任せてよ!色々聞き出してみんなの役に立つから!」


「それは頼もしいな!」


 報告の度に父に褒められるのでトールはいつも上機嫌です。

趣味のセンサー開発も父に認められて予算が少しずつ増えてますます学校の勉強はしなくなりました。

それで母の機嫌もあまりよくないのですが…生き生きしている息子の顔を見て強くは言えないようでした。

トールもそこは少し気にかけていて、今の成績が下がらない程度には勉強をするようにはしています。

ただ今後もその調子が続くかと言えば、やはりそれも保証は出来そうにはないようなのですが…。


「ふあ~あ!今日も充実した一日だった!」


 ベッドに潜ってトールはすぐに夢の中です。

最近はストレスもないのでとても寝付きが良く、目覚めもすっきりなのでした。


 チチチ…チチチ…。


 ベッドで目を閉じたかと思うともう朝です。

トールはすぐに起き上がると背伸びをして体を目覚めさせます。

支度を済ませて上機嫌で部屋を出ますがすぐにまた戻って来ました。


「っべ!昨日作ったセンサーを忘れるところだった」


 そうです、昨日の尾行の失敗から今日は校舎にセンサーを取り付ける計画を立てていました。

勝手に学校にそんな物を取り付けてトールは怒られないのでしょうか?

しかし今のトールは怒られるかもなんてネガティブな感情は一切持ちあわせてはいませんでした。

今度こそ支度を終えたトールは朝食を食べて学校へ向かいます。


「今日こそはロルウの秘密を暴いてやる!」


 今のトールの心にあるのは燃える闘志だけでした。


 カチャカチャ…。


 トールは器用に校舎内の目立たない所に自慢のセンサーを取り付けました。

バッテリー内臓でフル充電で3日は稼働すると言う渾身の逸品です。

センサーの感知記録はモバイルで常にチェック可能とその辺の機能も抜かりありません。


 このセンサーは特定の人物を感知して動向を追跡すると言うものです。

センサーの感知範囲の問題もありますが範囲内なら理論上100%相手の居場所を特定出来ます。

このセンサーを校内に3ヶ所、後、範囲外に出たら感知しながら追跡出来る特殊ドローンを配置しました。


「この日のためにさんざん研究し尽くしたんだ…今日こそ突き止めてやる!」


 この日のトールは興奮しっぱなしで授業はほとんど耳に入りませんでした。

そんな状態なので時間はあっと言う間に過ぎていきます。

そうしていつもの様に昼休みになりました。2人は日課のように屋上へ…。


「なぁ…」


「ん?」


「もうここに来るの日課になってね?」


 2人は最初の日に屋上で話して以降、もう無意識のように屋上に来ています。

よく考えると何となくおかしくてトールはついその事を口に出してしまいました。

その言葉にロルウは特に何も気にしていない風に答えます。


「いいんじゃない?ここ落ち着くしさ…やっぱ青空の下って感じがするのが好きだな」


「あのさ…」


 ここまで話してトールは父との会話の事を不意に思い出しました。

そこで今日の会話のテーマをそれに合わせる事にしました。

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