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10.きゅうりウォーズ(4)

 アラダさんは自分の担当部署に戻って任された仕事をこなし始めます。

トールはそんなアラダさんの仕事っぷりを横目で眺めつつ、父の元に向かいます。


「今日はどうしたんだ?明日には帰れるんだけど…待てなかったのか?」


 難しそうな書類に目を通していたウル博士は作業の手を止めてトールに向き合いました。

大切な仕事を中断させて申し訳ないと思いつつ、トールは口を開きます。


「どうしても伝えたい事があって…」


「ああ、例の話か…何か進展があったのか?」


 そこは流石トールの父親です。たった一言で息子が伝えたい要件を把握しました。

トールは父親が受け入れてくれている事を確認して決壊したダムの水の勢いのように言いたい事をぶちまけます。


「進展どころじゃないよ!今とんでもない事になっているんだ!」


「一体何があった?」


 流石のウル博士もトールのこの勢いに少し引き気味です。

しかしその勢いから本当にとんでもない事が起こったんだなと理解しました。


「あのきゅうり、学校に転校してきた…」


「何?」


「だからあのきゅうりが学校に…よりにもよって俺のクラスに転校して来たんだよ!」


「何…だって?」


 トールの口から語られた想定外の話にウル博士も思わず二度聞きしてしまいました。

様々な状況を想定するのが得意なウル博士と言えどもそんな状況になるなんて予想の範疇を超えています。

しかしこのトールの反応は父親をからかおうとしているそれではありません、この話をする彼の目は本気でした。

それでまずは状況を整理するためにウル博士はトールに質問しました。


「…だってそれじゃあ学校中がパニックになるだろ?」


「そう思うでしょ?ところがそうはならなかったんだ」


「ん?待て待て!何も言うな!つまりそれはこう言う事だな…」


 ウル博士は謎かけ的な会話の流れになるとまずは自分でその謎を解こうとします。

そう言う会話の流れになった時、父親の答えが出るまで黙って待つというのが一家のルールでした。

博士はしばらく考えて、そうして博士なりの回答を導き出しました。


「何か催眠的な能力を使って周りを騙している!」


「正解!まぁ正確に聞き出せた訳じゃないからそう俺が予想しているだけなんだけど…」


 こう言う流れの会話の場合のウル博士の正解率かなりのものでした。

それは職業柄いつも頭脳をフル回転させているが故の事なのでしょう。

ま、多少詰めが甘かったりする場合もあるので足りない部分は結局相手に答えを聞いたりもしますが。


「しかしよくそんな状態でお前はそのきゅうりの正体に気付けたな…」


「俺だけはヤツの姿がきゅうりにしか見えなかったんだよ」


「なるほど…つまりきゅうり側の洗脳装置にも何らかの欠陥があるって訳だな」


「多分そうだと思う」


 これで謎かけの答えは全部出揃いました。

満足した博士はその話の続きを催促します。


「で、そいつと何か話したのか?」


「うん。この星に来たのは情報収集の為だって」


「なるほどなぁ…これは大変な事になって来たな」


 トールの話を博士は素直に受け入れました。

流石事前にきゅうりの映像を見て頭の中に受け入れ体制が出来ているだけはあります。

何も知らずに突然そんな話をされたらウル博士でもただからかわれているだけだと感じた事でしょう。

博士は早速それを事実としての対策を頭の中で練り始めました。

そんな博士の状況を知ってか知らずかトールは更に話を続けます。


「それで…そいつが奇妙な事を言っていたんだ…」


「奇妙な事?」


「ケビン博士の発明がきゅうり文明由来だって…父さん何か心当たりない?」


 ここまで話して来て、トールが本当に急いで知りたかったのはこの事なんだなと博士はピンと来ました。

この話題を話し始めた時のトールの顔が一番真剣だったからです。


「ああ、その答えが知りたくて明日まで待てなかったんだな」


「そりゃそうでしょ!父さんなら何か知っているよね!ケビン博士は父さんの…」


「ああ、確かに私とケビン博士とは親友だ。向こうがそう思ってくれているかは分からないけど」


 博士のこの反応にトールは少し疑念を抱きました。

もし父とケビン博士が真の意味での親友だったならそんな自信なさげに話すはずがありません。

そこでトールは父に対して少しカマをかけてみる事にしました。


「もしかして…発明の事は何も聞かされていないの?」


「すまん、実はそうなんだ。博士がまだ宇宙考古学専門だった頃は知っているんだが」


「親友の父さんでも知らない事があったなんて…」


「人間だからな…いくら親密な関係でもその人の事を100%知るなんて不可能だよ」


 正直言って父のこの答えにトールはがっかりしました。

何故なら父に聞けばすぐに真実が分かるだろうと楽観的に考えていたからです。

しかし人間関係と言うのはそんな単純なものではありません。

トールは当てが外れてしまってその話の流れでつい軽くつぶやきました。


「じゃあ直接ケビン博士に聞いて確かめないと!」


「まぁ待て、今博士は特別な存在だ、会おうと言って簡単に会える訳じゃない」


 そう、今やケビン博士は対きゅうり戦の重要な頭脳です。

敵に狙われない為にもセキュリティはとても強固になっています。

なので面会するにしてもかなり複雑な手続きと時間が必要なのです。


「父さんの力を使ってもダメなの?」


「おいおい、自分の父親をどんな権力者だと勘違いしているんだ?流石にそこまでの力はないよ」


「何だ…父さんはただケビン博士の友達って言うだけか」


「流石にその言い方は父さん傷つくぞ…」


 片や世界の切り札と言う特別な地位を手に入れたケビン博士と片や一介の研究者の父親…一時期は親友として肩を並べていた時代もあったのでしょうけど、今では2人の差は開くばかりです。

けれどウル博士はその事をあまり重要には考えていませんでした。

だからこそこのトールの落胆した言葉にも軽く返したのです。

そうしてまた情報を聞き出すためにトールに話の続きを要求します。


「で、そのきゅうりは他に何か言ってたのか?」


「この星の技術はちょろいとか…後、月に逃げたのは何か別の計画のためだとか…」


「結構聞き出せているじゃないか…上出来だよ」


 ウル博士はトールのこの報告に関心しました。

結構うまい事聞きたい事を敵対する相手から聞き出せていると感じたからです。

トールにはそう言う才能もあるんだろうかと親バカな事を思ったりもしました。


「何か参考になるかな?」


「ああ、この話を上層部にすればきっと動いてくれる…トールは引き続きそいつから話を聞き出してくれ」


「うん、何か分かったら必ず父さんに伝えるよ」


 トールは父に褒められて上機嫌になりました。

その日は研究所の食堂で夕食を食べてそれから自宅に戻りました。


「お帰り。父さんたち元気にしてた?」


「うん。みんな研究に熱意を燃やしていたよ」


「そっか。それを聞いて何だか私も昔を思い出すな」


 そう、かつては母もウル博士のラボで働いていたのです。

つまり職場結婚と言うやつですな、はい。

出会いの少ない研究者関係は職場結婚率が結構高いのだとか。

トールは話の流れからつい余計な一言を漏らしてしまいました。


「母さんは今でも研究に戻りたい?」


「まさかぁ。今はあなたを育てるのに夢中よ」


 さっきの一言のせいで母の話が自分に向けての教育論に変わりそうだったのでトールは急いで自室に戻ります。

昨日と違って今日はきっとすぐに寝られるなとトールは思いました。

その確信通りにこの日のトールはベッドの中で意識を失うと朝までぐっすり熟睡出来たのでした。


「どうだい?何か収穫はあったかい?」


 次の日の昼休み、2人はもう日課のように屋上に来ていました。

屋上について最初に口を開いたのはロルウでした。

トールはまさか彼の方から声をかけてくるとは思わなかったのでちょっと驚きました。


「何だよいきなり」


「君は多分行動を起こすと思ったんだけどな」


 ロルウの口ぶりはトールの性格を読んでの事のようです。

見透かされているような気がしてトールは少し嫌な気持ちになりました。

しかしそこで嘘をつけないトールは昨日の行動を正直に口にします。


「確かに父さんには会いに行ったけど」


「その言い方だと特にめぼしい成果はなかったみたいだね」


 トールの言葉にロルウは含みを持たせるような返事をします。

彼にまるで無能だと言われているような気がしてトールは気を悪くしました。

それで思わず過剰に反応してしまいます。


「一介の学生がそんな簡単にこの世界の重要秘密に触れられる訳がないだろ!」


「ふうん…。そりゃそうだね」


(こいつ…)


 そのくらい最初から知っていたとでも言わんばかりにロルウは飽くまでもクールにそう答えます。

口にこそ出しませんがその態度がどうしても気に障るトールなのでした。

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