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10.きゅうりウォーズ(3)

「今日も昼休みは屋上かい?」


 休み時間にぼうっとしているトールに今度はロルウの方から接触してきました。

不意打ちを食らった格好になったトールは少し動揺して、しかし冷静に答えます。


「ああ。そっちがいいなら…」


「僕の方は大丈夫だよ、じゃあそう言う事で」


 昨日の今日って話なのですがどうにもロルウには行動に余裕があります。

そこは踏んだ場数の数の違いなんだろうとトールは思いました。

そして一気に時間は過ぎ昼休みになり舞台は屋上へ。


「で、確証は掴めたかい?」


「いや、まだ何も…」


 開口一番、ロルウはトールに質問を浴びせます。

いきなりの質問だったのでトールは少し面食らってしまいました。

するとロルウは少し困った顔をして質問を続けます。


「おかしいな…君の父親はあの博士の親友なんだろう?」


「なっ!」


 このロルウの言葉にトールは動揺しました。

まだトールはロルウにその事を伝えてはいなかったからです。

その前にロルウには自分の身元は出来る限り明かさないようにしようとトール自身考えていました。

けれどそのトールの身辺情報をロルウは既に知っていたのです。

その理由をロルウは自分から率先して明かしてくれました。


「そのくらい調べたらすぐ分かる事さ。この星の技術はもう大体把握したよ」


 この物語の舞台の猫文明は今の地球文明とほぼ一緒です。

なのでネットも普及していればネット検索で大体の事はすぐに分かります。

ロルウはそんな文明をこの星に降り立ってすぐにマスターしていました。

恐るべし、きゅうり軍エリートと言うところですね。


「と、父さんは昨日は研究所に泊まりで会えなかったんだよ!」


 ロルウに大体の事は把握されていると感じたトールは、嘘も言えず昨日起こった事を素直に口にしました。

ロルウはそのトールの返事を満足そうな顔をして聞いていました。


「なるほどね、で、今日は何を聞く?僕自身の事かな?こちら側だけ詳しくてもフェアじゃないしね」


「その様子じゃどーせ話したいんだろ?」


 一方的にまくし立てるロルウのこの態度にトールは少し呆れた風に返事をしました。

こう言う自分から話したがるのはナルシストに多い傾向です。

つまりこれから自分がどれだけ優秀かを一方的に聞かされる事になるんだろうなとトールは思いました。


「まぁね。僕の名はロルウ、きゅうり軍諜報部期待の新人さ」


(期待の新人って…自分で言うかねぇ…)


 話し始めたロルウの雰囲気にトールは呆れながらでも口には出さずに聞いていました。

ロルウの自慢気な自己紹介はまだ続きます。


「今のこの星の言語、習慣その他諸々を短期間でマスターした若干14歳の天才…くくく…この星はちょろいね」


「ちょろいなら何で逃げたのさ」


 猫文明を馬鹿にされてトールは思わず口が出てしまいました。

けれどトールはそれに対して特に怒るでもなく話を続けます。


「それは勿論計画の内さ…これ以上は話せないけど」


 ロルウのこの口ぶりからしてきゅうり人達が月に移ったのはゲイル博士の兵器に恐れをなしたからではなさそうです。

しかもそれは重要機密に相当する計画が秘められているみたいでした。

このロルウの言葉にトールはつい本音をつぶやいてしまいます。


「どうせなら月で満足してくれないかな…」


「言うねぇ君も。でも最終目的は変わらないよ」


 トールの皮肉もロルウに軽くかわされてしまいました。

それよりロルウの語る最終目的と言う言葉が気にかかります。

きゅうり軍の最終目的はやはりこの星の奪還なのでしょう。

その為に彼らが何をしてくるのか…トールは少しカマをかけてみました。


「また襲ってくるんだ?」


「それは君達の出方次第かな?おっと、君達と言ってももっと上の方の」


「襲って来たなら戦争だ…今度こそ負けはしない」


「だから交渉次第だって…ただ戦争になったら悲惨な目に合うのはどちらかな?」


 ロルウは飽くまでも心に余裕を持って話をしています。

逆にトールは少し感情的になってしまいました。

きゅうり軍に大きな損害を与えられていないネコ勢力に対しきゅうり軍はこの世界に大きな被害を与えています。

それが今のこの2人の態度の差に表れたのでしょう。


「…ぞくはいるのか?」


「何?聞こえない」


「家族はいるのかって聞いてるんだ!戦争なんてしちゃいけないんだ!」


「家族?そりゃあいるさ…って言うか戦争って言葉を切り出したのはそっちじゃないか」


 感情的になって思わず声を荒げるトールに対して飽くまでも冷静なルロウ。

お互いの心に生じた溝は簡単には収まりそうにもありませんでした。

最後は話がうまく咬み合わないまま、またしても昼休みの時間は終わってしまいました。


 キーンコーン…。


「時間の過ぎるのは早いね。じゃ、また今度」


 チャイムが鳴って早々に立ち去ろうとするロルウにトールは最後の質問をしました。

彼には昨日からずっと心に引っかかっていた疑問があったのです。


「最後にもうひとつだけ…」


「ん?」


「お前、放課後はどこへ…」


「うん、それ秘密」


 ロルウは笑顔でトールの質問をはぐらかして教室に戻って行きました。

トールは脱力感で一杯になりながら遅れて教室に戻りました。


「何か上手く行かないな…」


 トールは教室の窓から見える空を見ながらつぶやきました。

昼休みのロルウとのやり取りのせいで午後の授業は今ひとつ身が入りませんでした。


 放課後になって一応念の為トールはロルウの後をつけましたがやはりどこかでまかれてしまい彼の足取りを最後まで追う事は出来ませんでした。


「うーん、俺に探偵の才能はないな…」


 自分の可能性のひとつが否定され、トールはトボトボと帰宅しました。

しかし帰ったところで何もやる気が起きません。


「お父さん今日も泊まりだって」


 母親のこの言葉に最初は落胆したトールでしたが徐々に謎の闘志が心の奥から燃え上がるのを感じていました。


(父さんが家に帰らないならこっちから出向けばいいんだ!)


 トールはそう決意するやいなや出かける準備を手早く済まして家を出ました。


「ちょっと研究所に行ってくる!」


 母親には一言簡単にそう告げて。


 トールの家から研究所まではバス一本で繋がっています。

乗り継がなくていいし料金も関係者パスで無料だし所要時間も20分程度なのでトールは今までも簡単に研究所に遊びに行っていました。

研究所についたトールは改めて気合を入れて研究所に入って行きました。


「えっと、父に会いに来ました」


 受付でそう言うと5分位待たされた後、面会の許可が降りました。

流石にスタッフと顔馴染みになっているので終始和やかな雰囲気です。

来客用のパスを渡され早速父親の所属するラボへと向かいます。


「えーと、確か…」


 ラボのある階まで来たトールは案内板で場所を確認します。

研究所は似た間取りの部屋が多く、毎度確認しないと目的地がよく分からないのです。


「あれ?トーマ君じゃない」


「トールです!いい加減覚えてください!」


 この時トールに話しかけてきたのは長年父の助手を務めているアラダさんです。

長身で白衣でメガネ、黙っていれば結構な美人さんです。

彼女は仕事は優秀なのですが何故か人の名前を覚えるのだけは苦手でした。


「お父さんに会いに来たんでしょ?今回は何の要件?」


「特別大事な要件です!」


 何も知らないアラダさんは脳天気にトールに質問します。

トールはアラダさんの口調に少し馬鹿にされている印象を受けたのでちょっとムキになって返事をしてしまいました。

アラダさん本人はちっともそんな気はないんですけどね。


 でもここでアラダさんに会ったのはある意味ラッキーと言えるでしょう。

この分かり辛い間取りの中を迷いながら探すより彼女について行った方が簡単にラボに辿り着けます。

そんな訳でトールはアラダさんと話をしながら一緒にラボに向かう事にしました。


「しかし大きくなったねぇ」


「確か3ヶ月前にも会ってますけど?」


「何言ってんの?この時期の男の子の3ヶ月って大きいのよ」


 アラダさんはトールが幼い頃からの付き合いなので彼を未だに子供扱いしています。

とは言え、人間並みの寿命の猫の世界ですからこの世界の14歳じゃやっぱりまだ子供なんですけどね。


「でさぁ、重要な要件って何?先におねーさんに教えてくれない?」


「多分すぐ周りに広がるだろうから先に父に話したいんです」


「何その理屈?まぁいいわ。お父さんと有意義な話が出来るといいわね」


 アラダさんとの会話はそんなに悪くないのですがたまに対応に困る時があります。

とは言え彼女は話好きなのでその会話は途中で気まずくなる事もなくスムーズに流れていきます。

その辺の会話のテクニックは流石だなぁとトールは思っていました。


「さて、ついた。それじゃあ感動のごたいめーん」


 目的のラボについた2人はここで別れました。

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