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9.魔女との約束(7)

 ここからの駆け引きがまた非常にデリケートな問題になるのです。

 恐らくタイミングを間違えば部屋全体が崩壊する…そんな危険性すらはらんでいました。


「いいねぇ…この緊張感…昔を思い出す」


「私は二度と味わいたくなかったよ」


「どの口が言っている?…昔のお前ほど好戦的な奴もいなかった」


 夢魔の言葉に挑発されたのか先に動いたのは魔女の方です。

 魔女は魔法発動の構えをとったかと思うと手にした杖である特殊な神聖文字を空中に描きました。

 杖の先から出る光で描いた神聖文字が実体化していきす。

 するとその文字が眩しい光を描きながら夢魔に向かっていきます。


「真・光翼浄火!」


 魔女の魔法の発動を確認して夢魔はにやりと笑います。

 そうしてすぐに体勢を整え両手を前に突き出して夢魔も攻撃へと移ります。


「暗黒餓狼無限降誕!」


 夢魔は無数の闇の眷属を召喚しました。

 呼び出された闇の眷属は魔女の攻撃により次々と消滅していきます。

 魔女の攻撃はすさまじい威力を持っていましたが夢魔も恐ろしい勢いで闇の眷属を召喚し続けます。

 そしてこの力比べはお互いの魔力が同時に切れたところで終りを迎えました。

 自慢の魔法を防がれ肩で息をしながら魔女は夢魔に言いました。


「まるであの時の再現だね」


「違うのは互いが単独だってところかな」


「純粋な力比べ…今度こそ決着が付くかねぇ」


 かつて魔女が魔王と戦った時はお互いが全勢力を掛けて命懸けで戦っていました。

 魔女側にも仲間が、魔王側にも仲間が大勢いたのです。

 そして時が流れ…今繰り広げられているのは魔王の分霊とその時代に戦った魔女ひとりとの戦い。

 それはまるで過去の戦争の代理再現をしているかのようです。


「実際、決着なんか付く訳ないんだがな…条件が一緒なら」


「今のあんたは体が猫だし私は力を加減しないといけないからね」


 お互いこの戦いで消耗した自分の疲労を相手に悟られないように誤魔化しながらニヤリと笑い合います。

 牽制し合いながらも体力を回復させる時間を稼ぐために2人はどちらからと言うでもなく喋り始めました。


「どうしてこうなってしまった…お前が裏切らなければこんな」


「私は気付いたんだよ…今のままじゃいけないって」


「それで世界はどう変わった?何か変わったか?」


 何と!魔女は元々夢魔…魔王の仲間だったようです。

 通りでその強さにも魔王についての知識が豊富だったのにも納得です。

 かつての魔王の仲間がどこかで改心してこの世界の最初の魔女になって仲間を増やしていって魔王との対戦に備えた…と言う事でしょうか?

 そうしてそんな行動をした魔女に夢魔は疑問をぶつけたのでした。


「何も変わらない…変わらずに済んだんだよ。あんたらを抑えた事でね」


「やはりお前を第7階層に送るべきではなかった…今更遅いがな」


「そう、結果を見れば全ては必然だったのさ」


 この関係性を考えるとネコが魔女に夢魔退治を依頼した流れすら大きな運命の流れの中での必然のようにも感じます。

 なるべくしてなった。起こるべくして起こった。世の中にはそう言う出来事が稀に起こります。

 もしかしたら世の出来事の全てがそんな見えない糸に導かれた必然の物語なのかも知れません。

 ただ自分たちが気付かないだけで何事も運命の神様に操られている…と言うのは流石に考え過ぎかも知れませんけど…。


「全ては結果が証明する…だな」


「この戦いも決着をつけなくちゃねぇ」


「全くだ…必然に打ち勝ってこその勝利…」


 夢魔がそう言った後に2人はまた臨戦態勢を取ります。

 今度こそ決着は付くのでしょうか…。そうしてこの戦いの勝者は…?


「這い寄る混沌よ来たれ!」


 しばらくの臨戦態勢の後、最初に仕掛けたのは夢魔の方でした。

 夢魔の宿るネコの手から無数の有象無象の謎の生物が出現します。

 見た目がかなり醜悪なまさに魔物と呼ぶに相応しい生物が魔女に迫ります。


「あんた…召喚で私に敵うとでも?」


 夢魔のおぞましい攻撃を見ても少しもひるまずににやりと笑う魔女。

 彼女は少し間合いをとるために後ずさりするとすかさず呪文を唱えます。

 呪文の詠唱と共に魔女の周りの空間もまた歪んで来ました。


「…盟約により今こそその責務を果たせ!幻夢百鬼夜行!」


 魔女がそう言い放つと彼女のかざした杖からこれまた無数の魔物が出現します。

 夢魔の放った魔物と魔女の放った魔物がお互いを貪ろうと正面対決をします。

 その光景はまるでこの世のものとは思えないほどのおぞましいものとなりました。


 今度の戦闘は期せずして召喚術対決になりました。

 夢魔は魔女が召喚術に長けていると知っていて何故同じ土俵で戦おうと思ったのでしょう。

 よっぽど自分の腕に自信があったのか…それとも…。


「混沌よ!喰らい尽くせ!」


「百鬼よ!その全てを無に返せ!」


 術者はお互いに自分が召喚した存在に命令を下します。

 膨大なエネルギーが儀式の部屋の中央に集中してやがて暴発しました。

 圧縮された膨大なエネルギーは召喚された生物を一つ残らず飲み込んで自らもまた消滅してしまいました。


「何故だ…何故対消滅で反応が消える…?」


「私がその展開を読めないと思うかい?」


 魔女は召喚された魔物達が最後はエネルギー体そのものになって最終的に巨大な爆発をする展開を読んで爆発エネルギーを別の空間に飛ばす魔法も同時に発動させていたのです。

 夢魔の目論見はまた魔女に阻止されてしまいました。


「流石は…第1使徒『レイヴル』…ひれ伏せ!」


 夢魔は強い意志を持って手をかざしながら魔女にそう言い放ちました。

 夢魔がそう言い終わると同時に圧縮されたエネルギーが魔女に向かって放たれます。


「残念だね…私はもうその名前を捨てている…届かないよ」


 魔女に向かっていたエネルギーは彼女が杖を一振りする事で勢いそのままに夢魔に反射します。


「愚かだね…ツメが甘いよ」


「呪詛返しだと…?そんな…馬鹿なぁぁぁ!」


 戦闘でほぼ力を使い果たしていた夢魔は反射してくる自分の攻撃を避けられずにそのまま自爆しました。

 その様子を確認した魔女は素早く杖で空中に図形を描きます。


「切り札は最後まで取っておくもんさ…そうだろう?第18使徒『ヨグル』…容れ物に戻るがいい!」


 魔女がそう言い放つと同時に夢魔の体に変化が訪れます。

 正確にはネコの体から夢魔の正体である魔物の分霊が引き剥がされているのです。

 それは夢魔にとって耐え難い苦痛を伴うものでした。


「うぐぐ…貴様!やはり…!」


 自分の真の名前を知っている…夢魔は魔女の正体を確信しました。

 そして、だからこそもはや打つ手が無い事もまた自覚しました。

 魔女の言葉を受けた後、夢魔はしばらくネコの体から出まいと必死に抵抗しますがそれもやがて徒労に終わります。


「ぐあああああ…!」


 夢魔はそう叫ぶとネコの体から強引に引き剥がされました。

 その途端、ネコの体は魂のない空っぽの状態になりそのまま床に倒れこみます。


 その次には一体何が起こったでしょう。

 何と、夢魔の正体である魔王の分霊はこの部屋にあるある物に向かって吸い込まれていったのです。

 それは何とネコの魂が移されていたあのきゅうりでした。

 夢魔がきゅうりに吸い込まれたと同時にそれまできゅうりに宿っていたネコの魂はきゅうりから追い出されそのまま倒れたネコの体へと戻ります。

 こうして夢魔と魔女の戦いは魔女の勝利で無事終決しました。


「真名はこうやって使うもんだよ…」


 全てが終わった後、魔女はひとりそうつぶやきました。

 魔女は戦闘によってぐちゃぐちゃになった部屋を魔法で元通りにすると儀式の部屋にかけた魔法も解きました。

 それから魔王の分霊を封印したきゅうりを分霊箱に閉まってしっかりと封をしました。


「ふぅ…疲れたねぇ」


 結局魔女はネコの依頼をこなしつつ魔王の分霊も封印する大仕事をやってのけたのです。

 流石この世界の魔女の始祖、その力は絶大です。

 部屋の片付けが終わると魔女は倒れていたネコを抱きかかえ、部屋を出ました。


「ふにゃ…ここは…?」


 久しぶりにぐっすり眠ったネコは悪夢で起こされない熟睡からの目覚めを5年ぶりに体験しました。

 目が覚めるとベッドの隣で座りながら眠っている魔女の姿が目に入りました。

 そう、魔女はネコをベッドに寝かせた後、その様子をずっと見守っていたのです。

 ネコはそんな魔女を見てとても嬉しく思うのでした。

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