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9.魔女との約束(6)

「水縛禁呪封印!」


 余裕をかます夢魔に対し魔女はそう言いながら杖を振ります。

 すると魔女の前方の空間から意思を持った水が吹き出し螺旋状に回転しながら夢魔に襲いかかります。

 夢魔はすぐに回避行動を取るものの水はヘビのように夢魔を狙います。

 程なくして夢魔の体は意思を持った水に束縛されてしまいました。


「あんたの苦手な聖水を練り込んだ水で作った呪縛封印だ。力も使えないだろ?大人しくするんだね」


「…ククク…流石だな…これをまともに食らっていたら危なかったよ」


 バウン!


 魔女が自慢の技で捕らえたと思った夢魔は直後にその爆発と共に消えてしまいました。

 辺りには魔女の放った術の素である水が熱で蒸発して濃い霧状の水蒸気が立ち込めます。


「くっ!ゆるかった!」


 夢魔にまんまと逃げられた魔女は悔しがりました。

 立ち込めた水蒸気のせいで部屋の視界はかなり悪くなっています。

 この中で攻撃されたら魔女もただでは済まないかも知れません。


 そこでまず魔女はこの水蒸気を払う事にしました。

 杖に風の精霊の力を宿して魔女は霧を払います。

 魔女が精霊の力を宿した杖を軽く振り払うと儀式の部屋に突風が吹き荒れ水蒸気は簡単に掻き消されました。

 しかし霧が晴れて視界がクリアになった時、そこにいるはずの夢魔の姿はありませんでした。


「やるね。でもこの部屋からは出られないはず…姿を滲ませたか?」


 姿を滲ますとは周りと同じ色になって姿を消したように見せかけていると言う意味です。

 ぶっちゃけ光学迷彩みたいなものとでも思ってください。

 夢魔は姿を消して魔女を攻撃するタイミングを見計らっていると魔女は読みました。

 そこで魔女は杖を目一杯高く掲げて探索魔法で辺りの気配を調べる事にしました。


「隠れようとしても無駄だよ」


 魔女が杖を使ってスキャニングを始めた時です、急に部屋の空気が振動を始めました。

 そう、夢魔は魔女が辺りを探るこのタイミングを狙っていたのです。


「空間共振で結界ごと消し飛ばしてやる!波動共振激!」


 夢魔がそう叫ぶと部屋の空間自体が超振動を始めます。

 この空間の振動で体の自由を奪われた魔女は追加攻撃で襲ってくる波状攻撃に無防備の状態で対処しなくてはならなくなりました。


「しまっ…!」


 ドガッ!


 不意を付かれた魔女はこの夢魔の攻撃をモロに食らってしまいます。

 魔女の周りを覆う防御結界は一瞬で砕け散り彼女は部屋の壁に強く打ち付けられました。

 その衝撃で魔女は気を失います。


「ほう、流石に頑丈だな…」


 夢魔はそう言うとその様子を見てにやりと笑いました。

 そうしてゆっくりと夢魔は近付いて来ます。


(うわ!やめて!こっちに来ないでにゃ!)


 そう、夢魔が近付いているのは魔女の方ではなくきゅうりの方でした。

 きっと夢魔はきゅうりを人質にして魔女と交渉をするつもりなのでしょう。

 動けないきゅうりに宿っているネコは何をする事も出来ずただただ恐怖で震えるばかりでした。


 バチバチッ!


「おおっと!」


 夢魔がある程度きゅうりに近付いた時、きゅうりに仕掛けていたトラップが発動し夢魔はすぐに距離を取ります。

 しかしその時に夢魔はどうやら感電したらしく肉球や毛がやや焦げていました。


(にゃあっ!ボクの体が!)


 その夢魔の様子を見たネコは傷ついた自分の体を見てちょっとショックを受けました。

 仕方のない事とは言えモヤモヤとした思いを抱いてしまいます。

 今はきゅうりの中に意識があるのにトラップを受けて傷ついた自分の体を見てネコは痛みのようなものを感じていました。


 しかし今の体の支配者の夢魔はと言うとそんな魔女のトラップに何らダメージを感じていなさそうです。

 夢魔自身が我慢強いのか感覚を制御する術を身に着けているのか…とにかく平然とした顔のまま次の行動をどうするか考えています。

 そうして考えをまとめた夢魔はきゅうりに向けて手をかざしました。

 つまり直接接触するのではなく間接的に動かそうと言う作戦のようです。


「そうはさせないよ」


 夢魔がきゅうりに気を取られている間に魔女は立ち上がっていました。 彼女は何とタフなのでしょう!

 魔女は夢魔に対して規則的に杖を振ります。夢魔が反撃をする隙を与えないようにその動きはとても素早いものでした。


「天撃雷空波!」


 魔女がそう叫ぶと強力な電撃が夢魔を襲います。

 電撃は光の速さで確実に夢魔を捉え、今度こそ夢魔にダメージを与えました。


「なるほど、これは中々だな」


 しかし夢魔は平然としています。余裕の笑みすら浮かべていました。

 攻撃が当たらなかった訳ではありません。何せネコの体は魔女の攻撃を受けて黒焦げになっているのですから。


(あああっ!ボクの体がボロボロにゃ…)


 自分の体が魔女の魔法でボロボロになる瞬間をまじまじと見ていたネコは精神的にかなりショックを受けました。

 しかしきゅうりに移された自分にはどうする事も出来ません。

 なのでネコは今後魔女が自分の体にこれ以上過激な攻撃をしない事をただ祈るばかりでした。


「ダメージはないのかい」


 自分の攻撃がヒットしても平然としている夢魔を見て魔女はポツリとそう漏らしました。


「ほう、まるで自慢の一撃のような言い方だな。お前の実力はその程度じゃないだろう?」


「あんた分かって言ってるんだろう?その体は無事でないといけないんだよ」


「勿論分かっているとも。だから攻撃を受けてやったのさ」


 どうやら夢魔は魔女の意図を読んでわざと攻撃を受けたようです。

 2人の真の実力はまだ明かされないままジリジリと時間は過ぎていきます。


「この体がどこまで耐えられるか分からないが…少し試してみるか」


 夢魔はそう言うと両手を体の前に突き出して手と手の間に出来た空間を歪ませていきます。

 やがて空間の歪みは大きな球状の磁場に凝縮されてその中にエネルギーがどんどん圧縮されていきます。


 バチッ!バチバチッ!


 夢魔が技の発動の準備を始めてから儀式の部屋のあちこちで大きな音が鳴り始めました。

 これは何やら不穏な雰囲気です。それはまるで得体の知らない邪悪な力が増幅されているようでした。


「無茶はおよしよ」


 この夢魔の行動に魔女は冷静に声をかけました。

 どうやら魔女は夢魔が何をしようとしているのか気がついているみたいです。

 と言う事は対処法も魔女の中にはあるのでしょう。でないとそんな冷静には振る舞えるはずがありません。

 ネコは魔女を信じるしかないのでとにかく魔女を応援しました。それが例えどんな状況になろうとも。


「冥堂覇王滅!」


「黒光時流反転鏡!」


 夢魔が謎の大技を繰り出した瞬間、それに被せるように魔女も魔法を発動させました。

 夢魔が強大な力を手と手の間に生まれた空間から放出させ、魔女はその技自体を魔法で反転させます。

 反転された強大なエネルギーは逆に夢魔に向かって襲いかかりネコの体を焼きつくしました。


(あああ…もうダメにゃ…)


 その様子をまじまじと見ていたネコは絶望しました。

 魔女の魔法によって自爆した夢魔は自身が集めた圧縮されたエネルギーを全て体に受けたのです。

 その爆発の衝撃を見てもう自分の体は消滅したとネコは思いました。


「…だろうね」


 爆風が収まり始め魔女はそうつぶやきました。

 収まりつつある爆風の中にひとつの影があります。

 そう、あれだけのダメージを受けてまだ夢魔の体は健在でした。

 そしてそうなる事を魔女もまた読んでいました。

 夢魔の姿がはっきり見えるようになった時、魔女は夢魔に対して言いました。


「私も私だけどあんたもあんただよ。あんたこそ何でそのネコの体にこだわるんだい」


「それは…相手がお前だからだ」


「とことん天邪鬼だねぇ…」


 煙が消え去ってはっきり見えるようになったネコの体は本当に酷い有様でした。

 けれど自己修復魔法で見る見る内に超自然的にその体は治癒していきます。

 その見事さはまるで逆再生の映像を見ているかのようでした。


(夢魔が…ボクの体を治している…にゃ?)


 この夢魔の行動を見てネコは何故そうするのか分かりませんでした。

 それはまるで夢魔が意地でもネコの体を使って魔女を倒そうとしているようにすら見えました。


(もしかしてボクの体って実は特別な何かなのかにゃ?)


 ネコがそう思ってしまうのも不思議ではありません。

 しかし夢魔ははっきり相手が魔女だからと言っているのです。

 つまりネコの体だと言うのは関係なくて相手が魔女だから意地になっていると言う事です。

 二人の関係はやはり過去に敵対関係があった以上の何かがある気がします。


「私の封印が何故解けたのか聞かないのか?」


「聞かなくてもいずれこうなるって分かっていたからねぇ」


「それも魂の囁きか?」


「誰が犯人であれ関係ないさ。そうなる景色は見えていたし実際そうなった。それだけで十分」


「で、お前は私をこの体から取り除きたいんだろう?だがそうはいかない。お前の思い通りにはならない」


「だから天邪鬼だって言ってるんだよ」


 2人はきゅうりを中心として点対称の位置取りをしながらお互いの隙を伺っています。

 部屋の明かりのろうそくの炎がゆらゆらと揺れてお互いの影もそれに合わせて踊ります。

 2人はお互いの隙を伺いながら同時に呪文を詠唱し続けています。

 静かな緊張感が部屋全体を厚く覆い、ネコは何だか生きた心地がしませんでした。


(この緊張感…耐えられないにゃ…二人はよく平気だにゃ…)


 1秒1秒が重いこの状況…二人はほぼ同じタイミングで詠唱を終え、後はどちらが先に仕掛けるかと言う段階です。

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