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9.魔女との約束(4)

 思わずネコはその謎の答えを魔女に求めます。


「それは何にゃ?」


「あんたには手に負えない問題だよ、知らなくていい」


 ネコの質問に答える事を魔女はきっぱりと拒否しました。

 それから話をネコの最初の依頼へと強引に引き戻しました。


「まずはあんたの中の夢魔をどうにかしないと」


「何とか出来るのにゃ?」


 話が急に戻ったのでネコは少し拍子抜けしてしまいました。


「あんたは私に何を依頼しに来た?魔王の退治じゃないだろ?」


「それは…そうだけどにゃ…」


 確かにネコが魔女に依頼したのは夢魔の退治です。

 決して世界を滅ぼそうとする魔王を倒す事ではありません。

 魔女の言葉にネコは返す言葉を失いました。


「私が思いついたのはあんたの体から夢魔を追い出す方法さ。それが出来れば十分だろ?」


「でも…魔王をこのままにしていていいのにゃ?」


「馬鹿だねぇ…そんなのあんたが気にする事はないんだよ」


 魔女はそう言ってネコを慰めます。

 ネコが最初に話した寝不足で苦しんでいると言うのを魔女はしっかり気にかけてくれていたのです。

 それでもネコはやっぱり知ってしまった事は気になってしまうのでした。


「でも気になってしまうにゃ!別の意味で眠れなくなるにゃ」


「全く…いいかい?このままだとあんた後3年も経たない内に夢魔に精神を蝕まれて死ぬよ!」


「そ、そうなのにゃ?」


 ここで初めて語られた衝撃の事実!

 何とネコはこのまま何もしないで夢魔の好きにさせていた場合、寿命が後3年もないのです。

 魔女の口から語られたこの言葉にネコはかなりのショックを受けました。

 そのネコの様子を見て魔女はネコの身を案じるように優しく話しかけます。


「後の事は私らが何とかするから今は自分の身を案じな」


「わ、分かったにゃ…お願いするにゃ…」


「分かればよろしい」


 素直に返事をしたネコを見て魔女はニッコリ笑いました。

 話が一旦リセットされた事で改めてネコは魔女に問いました。


「で、どうやって追い出すのにゃ?」


「まずはあんたの魂を別の容れ物に移してあんたの体を壊す。そうすれば夢魔の魔王もあんたの体にいられなくなる」


「にゃっ?」


 魔女が示した夢魔退治の計画はあまりに大雑把なものでした。

 魂を入れ替えるとか、こんな事は魔女にしか思い浮かばない事でしょう。

 流石のネコもそんな事が出来るのか半信半疑です。

 そんなネコの様子を見て魔女は子供を諭すように話しました。


「大丈夫だよ、ちゃんと後で体も治すし魂も戻す。これで元通り」


「無茶苦茶簡単に言うけどそれって大丈夫なんにゃよね?」


 生き物の体をまるで壊れたおもちゃを直すみたいに簡単に表現する魔女にネコは念を押すように言いました。

 そりゃ他の誰でもない自分の事ですからネコだって不安になると言うものです。

 このネコの追求に魔女は少し機嫌を悪くしてしまいました。


「おや?あんたここまで来て私を信用出来ないかい?」


「…それはそうにゃけど」


 信用の話を出されてはネコも黙るしかありません。

 今までネコの悪夢問題を打破してくれる存在なんていなかったのですから。

 死に直結する病に冒されて唯一助けてくれる医者が現れたらその医者の言う事を信じるしかないのです。

 今のネコはまさにそんな状況でした。


「これが一番安全で確実なんだよ」


「追い出した魔王の分霊はどうするのにゃ?」


「上手く行けばまた封印も出来るだろうけど…私一人じゃ十中八九逃げられるだろうね」


 魔女のその答えを聞いてネコはもったいないと思いました。

 魔王の魂をそのままにしていたらまた誰かの夢に取り憑いてしまうかも知れません。

 ここでしっかり魔王の分霊を封印して二次被害を出さないようにするのはとても重要な事だとネコは思いました。


「そうにゃ!仲間とか呼ぶと言うのはどうにゃ?」


「この方法は聖水の効果が効いている今の内に手早くやらないと。仲間を呼ぶ時間はないね」


「そうなのにゃ…」


 折角のアイディアも結局魔女にダメ出しされてしまいネコはシュンとしてしまいました。

 時間が経つ程魔女の夢魔追い出し作戦の成功率が下がると言うなら今ここでうだうだ言っても仕方ありません。

 仕方なくネコは重い腰を上げ魔女の言葉に素直に従う事にしました。


「分かったにゃ…お願いするにゃ」


「よし、話が早いね!じゃあ早速儀式の部屋に行こうか!」


「またあの部屋なのかにゃ…」


 そう言ったネコの顔はどうにも浮かないものでした。

 何故ならさっき儀式の部屋でひどい目にあったばかりだからです。

 けれどあの部屋でないと事が進まないのであれば背に腹は変えられません。

 渋々ネコは部屋に向かう魔女の後ろにトボトボと重い足取りでついて行きました。


 こうして魔女とネコはまた儀式の部屋に入りました。

 今度こそネコの願いを叶える為に。


「それであんたの魂だけど取り敢えずこれに宿すから」


 そう言って魔女が持って来た物はきゅうりでした。

 それは見てネコは呆気に取られて言葉を失いました。

 そんなネコの態度を見た魔女は呆れたように言いました。


「何だい?不満なのかい?いいんだよ一時的なものなんだから」


「マジでこのきゅうりでやるのかにゃ?」


 魔女のこの適当過ぎる仕事ににネコはささやかな抵抗をしました。

 大体、魂をきゅうりに宿すなんて聞いた事がありません。

 魂をきゅうりに宿すと言う事は一時的にでも自分がきゅうりになると言う事です。

 ネコは流石にきゅうりはちょっとありえないと思いました。

 けれど魔女はそんなネコの訴えをサラッとかわします。


「魂なんて何にでも宿るんだよ。紙で作った形代でも不器用な子供が作ったぬいぐるみにでもね」


「どっちかと言うとまだそう言うのの方がいいにゃ」


「贅沢言うんじゃないよ、今この部屋にこれがあったんだからこれでやるよ!いいね!」


 魔女がネコの魂の移転先にきゅうりを選んだのは何か特別な理由があったからじゃなく、ただこの部屋にきゅうりがあったから…。

 ただそれだけの単純な理由からのようでした。

 ネコはその魔女の答えに呆れるやら感心するやら…とにかくこれ以上抵抗しても全然話が進まないので抗議しても無駄だと悟りました。


「…分かったにゃ…とにかく上手くやって欲しいにゃ」


「私を信用しな!」


 そんな訳で結局魔女の勢いに押されてネコは彼女の言う事に従う事となりました。

 全ての準備が整ったと言う事でいよいよネコの中の夢魔を追い出す儀式が本格的に始まります。

 もはやまな板の上の鯉状態のネコはただ魔女に言われるがままにその指示に従いました。


 まず魔女はネコを部屋の中央の魔法陣の中に入れて寝かせます。

 その隣にはかごに入ったきゅうりを置きました。

 魔法陣の東西南北に当たる場所に聖水を、そしてそのそれぞれの中間地点に火の灯ったろうそくを。

 そこまで準備出来たところで魔女は古びた本を片手に何やら呪文を唱え始めました。


 魔女が呪文を唱え始めた瞬間、ネコはすさまじい眠気に襲われました。

 なのでそこから先の事はネコの記憶にはありません。

 次に目が覚めた時は悪夢から開放されている事を信じながらネコは深い眠りに落ちていきました。


「さて、次は魂の移転だね」


 ネコが熟睡するのを見計らって魔女は儀式を次の段階に移しました。

 寝ているネコからその魂を引き抜いてその魂を隣に置いたきゅうりに移します。


 その方法として聖別された油をまずネコに振りかけました。

 その後にきゅうりにも同じように振りかけます。

 これによってネコときゅうりの2つの霊的位相を同調させた後、まずはネコから魂を引き抜きます。

 魔女は右手に持っていた油を霊木に持ち替えて魂の律動に合わせて降り始めます。

 独自のリズムで振られる霊木の誘導によって徐々にネコから魂が離脱していきます。


「せいっ!」


 ちょうどいいタイミングを見計らって魔女は霊木を振り下ろしました。

 その仕草によって、ネコの魂は見事にきゅうりに移されました。


「良かった、上手く行ったよ」


 魔女は魂の移動が無事成功してひと安心しました。

 実はこの儀式は魔女にしても伸るか反るかの賭けのようなところがあったのです。

 そう、魂の移転は魔女にとってあまり得意な分野ではありません。

 きっと今回は色んな条件が重なって魔女の集中力も高く維持出来、更に魔女の守護精霊も力を貸してくれたのでしょう。


「さあて、ここからが本番だよ」


 次はいよいよネコの体から夢魔を追い出す番です。

 ネコの体を物理的に傷つけてしまったら次にネコの魂を戻した時に不具合が出て来ます。

 だから飽くまでも霊的な圧力でネコの体から夢魔を追い出さなくてはなりません。

 いくら分霊とは言っても相手は魔王の魂です。相当の覚悟が魔女にも求められました。


 魔女は持っていた霊木を魔法戦闘用の杖に持ち替えます。

 事に臨むにあたって自身の最強の装備を持ってネコの中の夢魔と対峙しました。

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