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9.魔女との約束(2)

 それから30分位してからネコは魔女が言っていた部屋に行きました。


 カチャ…


 ドアを開けてその部屋に入ったネコは何か背筋が凍るものを感じました。

 その部屋は儀式をする為の部屋のようで見るからに怪しい物が部屋にたくさん置かれています。

 そう、それはまさに儀式を行う為に使われる儀式の部屋でした。


「こ、ここでいいんにゃよね…?」


 儀式の部屋は薄暗く奥の方は真っ暗で何も見えません。

 それは肝心の魔女が今この部屋にいるのかどうかすら確認出来ないほどでした。


「おお、決心がついたかい」


 ネコの言葉を聞いてその暗闇の中から魔女が答えました。


「ふにゃっ!」


 怪しくて暗い部屋の中から不意に声が聞こえたものですからネコはびっくりして飛び上がってしまいました。


「何だよあんた、びっくりさせないでおくれ!」


「びっくりしたのはこっちにゃ!」


 魔女の言葉にネコは驚いてネコの反応に今度は魔女が驚きました。

 お互いが驚き合って部屋には微妙な空気が流れました。

 しばらく経ってその雰囲気が収まったところで魔女はネコを部屋の奥に来るよう言いました。


「…さあ、始めるよ、そのまま入っておいで」


 魔女の言葉にネコは恐る恐る部屋の奥へとゆっくり歩いていきます。

 その時、部屋のドアが開けっ放しのままだったので魔女はネコを叱りました。


「こら、部屋に入ったらドアは閉めるものだよ!」


「ドアを閉めたら真っ暗になるにゃ!」


「おおそうか、忘れていたよ」


 ネコの言葉を聞いて部屋の暗さに気付いた魔女はろうそくに火をつけました。

 こんな暗闇の中で魔女はどうやって作業していたんだろうとネコは思いました。

 目を凝らしてよく見ればこの部屋はろうそくだらけです。

 魔女が合図をしただけで部屋にある無数のろうそくは一気に灯りました。

 その様子を見てネコはやっぱり魔女はすごいと関心しました。


「これなら明るいだろう?早くドアを閉めな」


「分かったにゃ」


 部屋の明かりが確保された事で安心したネコは部屋のドアを閉めました。

 外からの光が遮断されてろうそくの灯りだけになった儀式の部屋は何やら更に怪しい雰囲気です。

 魔女は儀式の部屋の中央に描かれた魔法陣へネコを誘導しました。

 初めての体験にネコはドキドキしっぱなしです。


「い、今から何をするんだにゃ?」


「契約の儀式だよ」


 契約!その魔女の言葉を聞いてネコは今から引き返せない道に進むんだと思いました。

 しかしここを乗り切らないと前には進めません。

 ネコは覚悟を決めました。全ては今の苦境を終わらせる為です。


「いいかい?悪魔祓い師は退魔に天使や神の加護の力を使うけど私ら魔女は悪魔を使役するんだ」


「そ、そうなのにゃ…」


「天使や神と悪魔が違うのは見返りを求める事。これが契約」


「わ、分かってるにゃ!」


 この魔女の説明を分かっていると口では言ったものの、ネコはこの事をこの時初めて知りました。

 ただここで少しでもいい顔をしようと思って知ったかぶりをしたのです。

 魔女は更に追い打ちをかけるようにもう一度ネコに念を押します。


「上手く行った時にちゃんと代償を払う覚悟はあるね!」


「も、勿論にゃ!」


 魔女の迫力にネコは終始押されっぱなしです。

 それでも自分のために真剣になってくれている魔女を見て彼女を頼もしく思えるのでした。


「それじゃあ早速始めるよ」


「あの…ボクは何をすればいいにゃ?」


 儀式が始まり緊張でじっとしていられなくなったネコは不安になって魔女に聞きました。

 魔女はそんなネコを見て真剣な顔をして一言ポツリと言いました。


「そこでじっとしていな。何かあればその都度言うから」


「わ、分かったにゃ…」


 魔女はそう言うと何やら呪文のようなものを唱え始めました。

 じっとしていろと言われたネコはそれを黙って聞いていました。


「…よって血の盟約により我、そなたの名を呼ぶ!いでよ!グリムル!」


 ボウン!


 魔女が呪文を唱え終わると目の前に悪魔が現れました。

 それは紳士のような格好をした気品のある礼儀正しそうな感じの悪魔でした。

 おしゃれヒゲのよく似合う説明がなければ一見悪魔だって分からない雰囲気です。

 そう、例えるならばその悪魔は熟練の執事のようでした。

 よく物語で語られるような怖い感じの悪魔じゃなくてネコは安心しました。


「久しぶりね、魔女シルム。今夜のお相手はこのネコさんかしら?」


「ええそうよ、出来そう?」


「そうね、確かに魔力を感じるわ」


 呼びだされた悪魔はオネェ言葉で魔女と会話を始めました。

 ガタイが良くてヒゲが立派で紳士の姿でオネェ言葉の悪魔…結構キャラが濃いですね。

 魔女にグリムルと呼ばれたこの悪魔はネコをじっと見つめました。

 見つめられたネコは緊張して微動だに出来ません。

 何せ産まれて初めて見る悪魔です。この先の行動が全く読めないのでした。


「見た所全くしっぽを見せないわねぇ。これって実はかなり上級の相手かも…」


「でしょうね」


「何よ貴女!知っていて私を呼んだの?悪趣味!」


 グリムルはそう言って魔女を非難しました。

 魔女はそんな彼の言葉をサラッと流します。


「出来ないなら帰っていいわ」


「うわっ!ひどっ!分かったわよ!やるだけやってみる!」


 グリムルはヒステリックにそう言うといきなり体を霧状に変えてネコの体内に侵入しました。

 いきなり悪魔に侵入されたネコでしたが体に違和感は全くありません。

 あまりに一瞬の出来事だったので目の前で何が起こったのか理解が追いつかないほどでした。

 その様子を見て魔女はにやりと笑います。


「上手く行ったね」


 ネコはもう訳が分からずぽかんとしていました。


「これで…何とかなるのにゃ?」


「あいつが相手に出来る相手ならね」


 ネコの質問に魔女はあっさりそう答えました。

 その答えに不安になったネコは思わす聞き返します。


「どう言う事にゃ?」


「あんたの中の夢魔の方が格上ならあいつじゃ役に立たないって事だよ」


「それってありえるにゃ?」


「ああ、十分にね」


 ネコはその魔女の言葉にびっくりしました。

 ネコは魔女のする事だからてっきり任せれば全てうまくいくと思っていたのです。

 確かにさっき成功率が五分五分だって言ってましたが、どうやらそれは本当のようでした。

 魔女の言葉を聞いたネコはこの夢魔退治がどうかうまく行くようにと願うばかりでした。


 ドクン!


 グリムルがネコに入って少ししてネコは急に体が跳ねました。

 それはまるで自分の体が自分のものじゃないような感覚でした。

 次の瞬間、ネコは気を失いその場に倒れてしまいました。


「ギャアアアア!」


 ネコが気を失って程なくしてグリムルが叫びながら飛び出して来ました。

 その姿はまるで戦争で爆弾にやられたみたいに既にボロボロです。


「貴女!私をとんでもないものと戦わせたわね!」


「そんなに厄介な相手かい?」


 非難するグリムルの言葉に魔女はとぼけたように答えました。

 その態度がまた彼を怒らせてしまったようです。

 グリムルはヒステリックに叫びました。


「ふざけないで!私、帰らせてもらいます!」


「何だか悪かったねぇ…後で埋め合わせはするよ」


 ボロボロになったグリムルはどうやらネコの体の中の夢魔に負けたようです。

 傷ついた体を引きずりながら出現した時と同じようにボワンと消えてしまいました。


「さぁて、困ったねぇ…」


 目の前には正気を失って倒れたネコがいます。

 そのネコはグリムルが去った後、突然ふわりと宙に浮かんだかと思うと魔女に向かって何か話し始めました。

 こんな現象はネコにとっても初めての事でした。

 とは言え、ネコはこの時気を失っていたのでこの事は何も覚えちゃいないんですけど。


「何やら客人を寄越したようだが無駄だったな…」


 宙に浮かんだネコはまるで別人のような冷徹な口調で話し始めます。

 そう、これはネコの体の中の夢魔が喋っているのです。

 その言葉を聞いて魔女は答えます。

 それはまるでこうなる事を最初から予想していたみたいでした。


「あらやだ…最悪の予感が当たっちまったよ…」


 魔女はすぐに手にしてた小瓶の中の液体をネコに振りかけました。

 どうやら魔女はこうなる事までちゃんと想定していたようでした。

 その液体を被ったネコの体から煙が吹き上がります。


 シュウウウ…


「聖水か…そんなもので私は止められん」


「そんなの分かってるよ」


 魔女は強い眼差しで空中に浮いたネコを見つめます。

 それはまるで宿敵と対峙する物語の主人公のようでした。

 やがてネコは糸が切れたタコのように生気を失い床に落下しました。


 ガバッ!


「おや、起きたかい」


「ここはどこにゃ?ボクは誰にゃ?」


「ここは私の家であんたは猫だよ」


 ネコが目覚めるとベッドに寝かされていました。

 それは最初にネコが魔女に介抱された時と全く同じシチュエーションでした。

 彼女は倒れたネコをこの部屋まで運んでそれからずっとネコを見守ってくれていたみたいです。


「…結局どうなったのにゃ」


「あんた、今悪夢を見ていたかい?」


 起き上がったネコに対して魔女は問いかけます。

 ネコはしばらく混乱していましたが、頭の中を整理して寝ていた時の事を思い起こしました。

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