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9.魔女との約束(1)

「いいのかい…契約を結んだ以上…」


「分かっているにゃ!これはボクの"覚悟"だにゃ!」


 ここは魔女の館。

 魔女の目の前に座っているのはネコです。

 ネコは魔女にある願いを叶えてもらいにやって来ていました。


 魔女に願いを叶えてもらうと言う事は何かと引き換えに契約を結ぶと言う事です。

 ネコには何もありません。何もないと言う事は必然的に命と引き換えと言う事になります。

 ネコにもその覚悟がありました。


「何も別に命までは取りゃしないよ…失敗した時、最悪そうなるかも知れないって言うだけさね」


「でもボクはお金なんて…」


「代償は上手く行った後でまた考えるさ…私もこの話に乗ったからね…悪いようにはしないよ」


「有難うにゃ…」


 さて、このネコの身に一体何が降りかかったと言うのでしょう。

 わざわざ森の奥の魔女の家までその能力を頼りに旅をさせるほどの事情…。

 ではここで少し時間を遡ってみましょう。


「うにゃあああ~っ!」


 ガバッ!


 時間は深夜。

 場所はネコの家の寝室。

 たっぷりの寝汗と共に起き上がるネコ。


 そう、その原因は悪夢。


 ネコはここ最近急に寝る度に必ず悪夢を見るようになりました。

 あまりに怖い夢のなので起きた後は二度と寝直し出来ません。

 おかげで連日寝不足です。


 寝不足も限界になって困り果てたネコは色んな所に救いの手を求めます。


 病院、民間療法、ネット辞書、まとめサイト、専門家、宗教関係者…。

 ネットはあまり役には立たず、民間療法も効果はありません。

 病院に希望を求めたらいろいろ診察されて結局はただ睡眠薬を渡されただけ…。

 最後の手段の宗教関係者の所に相談に行くと…。


「これは…夢魔の仕業ですね…」


「夢魔?夢の中に入り込む悪魔かにゃ?どうしてボクに…?」


「悪夢を見始めた時に何かショックな出来事はありませんでしたか?」


「そう言えば、両親が事故で入院してかなりブルーになっていたにゃ」


「その心の隙間を狙って夢魔があなたの体の中に入り込んだんです」


 この手の施設には悪魔祓いの部署があったりして医者では手に負えない事例は彼らの独壇場でした。

 流石はその道のプロです。ネコの様子を見た悪魔祓い師はすぐに悪夢の原因を見抜きました。

 悪魔祓いの人が言うにはかなりの大物がネコの夢に取り憑いていると言う事でした。


「残念ですが今専門の者が出払っていて私にはどうにもならないんです…」


「それで、その人は今どこにいるのにゃ!」


「彼らも今仕事で出ています…今からだと2年待ちになるでしょうか…最近何故かこの手の事例が多いんです」


「2年…そんなに待てないにゃ…今すぐにでもどうにかして欲しいにゃ」


「そうですか…困りましたねぇ」


 ネコの訴えを聞いて悪魔祓い師も頭を抱えてしまいました。

 彼の話によると最近急に夢魔の被害を訴える者が急増したとの事です。

 それで夢魔を担当する祓師ばかりが忙しくなって組織としても上手く機能していないのだとか。

 それで背後で何か大きな動きがあるのではないかと色々調べている最中だとネコに話してくれました。


 ただ、そんな組織の裏事情なんてネコにはどうだっていいのです。

 ネコからすれば早くこの悪夢から開放されたいと言うただそれだけの気持ちでいっぱいでした。


「そうにゃ!誰か他にこの夢魔を退治出来る人を知らないかにゃ?」


「…!」


「心当たりがあるなら紹介して欲しいにゃ!」


 ネコの訴えを聞いて祓師は固まってしまいました。

 さっきも話した通り組織内に今空いている夢魔を担当する祓師はいません。

 だからと言ってむげにこの困っているネコを追い払う事も出来ません。

 違う組織なら誰か居るかも知れませんが流石に他組織の事情なんて分かるはずもありません。


「…多分今はどこの組織もこの件で大変な事になっていると思います…」


「何でもいいにゃ!誰でもいいのにゃ!どんな方法でも…」


「分かりました…少し待っていてください…」


 祓師はそう言うと資料を探すのでしょうか?部屋を出て行きました。


「どうか…お願いしますにゃ…ここでダメだったらもう打つ手がないのにゃ…」


 部屋を出る祓師の後ろ姿を見ながらネコはもう一度頼み込みました。

 祓師がこう言う行動を取ると言う事は何か心あたりがある証拠です。

 ネコはその可能性を信じて祓師が戻ってくるのを待ちました。


 それから1時間位経った頃でしょうか?

 祓師が何か紙を持って戻って来ました。


「お待たせしました。ネコさんにその気があるなら一人紹介出来る方がいます」


「本当にゃ!」


 ネコは祓師のこの言葉に心が踊りました。

 これで悪夢から開放される!まさに朗報だと思いました。


「ぜひぜひ!教えて欲しいのにゃ!」


「いいんですね…今から私が紹介するのはある魔女のお宅です」


 祓師の口から出たのは意外過ぎる言葉でした。

 魔女…流石のネコでも魔女の事は知っています。

 怪しい魔術を使う事を生業にしている存在。

 時に悪魔を使役して悪事を働く事もあると言う…。


 ただし、一般的には現代ではもういないとされている存在でもありました。

 なのでネコは思わず祓師に聞き返します。


「魔女…にゃ?」


「はい、魔女です。正直本当は勧めたくはないのです。魔女は魔法を使い悪魔を使役する存在ですから…」


「で、でも…信用出来る魔女の方にゃんですよね?」


「それは今の所…ですが」


「分かったにゃ!会ってみるにゃ!」 


 そう言う話の流れの後にネコはこの魔女の家までやって来たのです。

 渡された地図の通りに歩いたのですがそれでも山を2つ越え森を3日3晩歩き通しました。

 ようやく魔女の家まで辿り着いた時にはもう疲れ果ててヘトヘトになっていました。


「こ…ここなの…にゃ」


 ネコは魔女の家の前まで来て…パタリと倒れてしまいました。

 その倒れた音を聞いて魔女がドアを開けて出て来ました。


「おや、珍しい…」


 倒れたネコを見た魔女はとりあえず空いている部屋にネコを寝かせました。

 祓師にも信用されている魔女ですから客を寝かせられる部屋はいくつかあります。

 その中の一室にネコは寝かされました…が、それから3時間もしない内にネコは起き上がりました。

 そう、例の悪夢のせいです。


「うにゃああああっ!」


「びっくりした!夢魔だね」


 悪夢に起き上がったネコを見て魔女はすぐにどう言う状況なのか理解しました。

 それから魔女はネコの為に何か持って来てくれました。


「まずはお食べ」


「あ、有難うにゃ…」


 魔女は疲れ果てたネコを見てパンとスープを持って来てくれました。

 お腹の空いていたネコは魔女にお礼を言ってその食事を口に運びました。


「さてと、どうするかねぇ…」


 ネコが食事をしている間魔女は何か悩んでいる感じでした。

 食事をしながらその事に気付いたネコは魔女に聞きました。


「どうかしたのにゃ?」


「いやね、私も夢魔は専門じゃないんだ…はっきり言うよ、成功するかどうかは五分五分」


 魔女のこの言葉にネコは動揺しました。

 魔女って言うくらいだからこう言うのは得意分野で対価さえ払えば100%成功するものだと思っていたからです。

 心配になったネコは思わず魔女に尋ねました。


「し、失敗したらどうなるにゃ?」


「安心おし、失敗したからって今以上に悪化する事はないよ…多分ね」


「た、多分?」


「あんたに取り付いている夢魔がもし私の手に負えない程の悪質なヤツだったとしたら…」


 そう話しながら魔女は真剣な顔でネコをじっと見つめます。

 その雰囲気にネコは飲まれてしまいました。

 スープを飲む為に動かしていた手もパンをかじる為に動かしていた口も止まってしまいました。


「その時はその時、あんたは死ぬまでずっと悪夢に囚われ続けるってだけの話だよ!」


 魔女はそう言って笑いました。

 まるで他人事のように高笑いをしています。

 魔女にとっては他人事でも当事者であるネコにとっては溜まったものではありません。


「そんな言い方はないにゃ!」


「あはは…からかってごめんよ。でもね、そう言うリスクがあるって事だよ」


 この言い方から見てさっきの言葉は魔女なりの冗談のようでした。

 冗談にしても少し悪質だなとネコは思いました。

 それでもネコにとってこの魔女が最後の希望である事に変わりはありません。

 なのでネコはもう一度念を押すように魔女に頼み込みました。


「でもここまで来たからにはお願いするしかないのにゃ…」


「分かっているよ、あんたの覚悟は。私も精一杯頑張らせてもらう…何せ久しぶりのお客さんだからねぇ」


 ネコの言葉に魔女はさっきとは打って変わって優しい笑顔でそう答えました。

 きっと魔女としてもこのネコの来訪はとても嬉しいものだったのでしょう。

 ネコが食事を終えるのを見届けると食べ終わった食器を片付けながら魔女は言いました。


「それじゃあ私は支度するからね…あんたの心の準備が出来たらおいで。何もそんなに急ぐ事じゃないからゆっくり考えるといい」


「ボクにはもうここしかないのにゃ…よろしくなのにゃ」


 魔女が部屋を出る姿を見送りながらネコは改めて魔女にお願いするのでした。

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