いらっしゃいませ
不思議で、不自然な、本屋だった。
ここは古都。発展した科学ではなく、古の魔法ですべてをまかなわれる都市。便利な科学に侵され今はもう、古都はここにしかない。世界で唯一の、魔法都市だった。
そんな古都の路地裏に迷い込んだ。見慣れた、いつもではなくとも幾度も通ったことのある道のはずなのに。
「…本屋……?」
そして、目の前にふと現れた本屋。突然ではないはずだ。悠然と、いつもここにあるとでもいうかのように本屋はあった。なのに、あることに驚いてしまった。
今は使われていない古の言葉で簡素に「本屋」と書かれた看板。その下にある異様に大きく古びた両開きの扉。そこにはやはり古の言葉で書かれた張り紙。
「迷いし者に、本を差し上げましょう…?」
招待の言葉に導かれるように扉を開く。軋んだ音を立てながらその扉は開いた。
「あら、いらっしゃい。」
突然聞こえた声に肩が震えた。そして、空気も。
中は本だらけだった。古書と思われる物がたくさん床に壁に積み上げられ声の主は見えない。
「久しぶりのお客さんだから油断しちゃった。」
軽やかで楽しそうな声は少女のような。
クスクスと笑い声が聞こえ、古書の山の向こうで微かに手首を振るのが見えた。
その途端、古書は意思を持つかのように動き出した。各々で居場所を知るかのように本棚に収まっていく。最後の古書が本棚に戻った時、声の主はまた口を開けた。
「あらためまして。いらっしゃいませ、魔女の本屋に。」