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こんな夢を観た

こんな夢を観た「喉から手が出る」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/10/25

 志茂田ともるに呼び出されて、喫茶店へと向かう。電話の様子から、どうもただ事ではなさそうだ。

 喫茶店のドアをくぐると、窓際の席に志茂田と、あちら向きに座るもう1人を見つける。どうやら、桑田孝夫らしい。

「何かあったの?」わたしは2人のいる席へ行った。

「ああ、来てくれましたか、むぅにぃ君」志茂田は、隣に座るよう促した。

「おはよう、桑田――」桑田を見て、驚いた。喉仏の辺りから、にょきっと腕が生えているのだ。「どうしたの、それっ?」

「あなたをお呼びしたのは他でもない、実はこのことでして」志茂田が押し殺したように言う。すぐに我慢できず、プッと吹き出した。

 桑田はムッとした顔をし、「第3の手」を盛んに振って抗議する。


「何なの、桑田。文句なら、口で言えばいいじゃん」不思議に思ってわたしは言った。

「それがですね、むぅにぃ君。彼は今、口がきけないのですよ」代わりに志茂田が答える。

「口がきけないって、どういうこと?」

「ご覧なさい、桑田君を。まさに、『喉から手が出た』状態でしょう? 声帯の代わりに、上腕二頭筋がついているのですよ」

 声は出ずとも、ぷんすか文句を言っている様子は伝わってきた。拳をこさえて振り上げる。その度に、喉もとに力こぶができた。一応、口をパクパクさせるが音はせず、代わりに、指を開いたり閉じたりと忙しい。


「あれは、何の真似?」隣の志茂田に聞く。

「手話ですよ。腕が生え、口がきけなくなると同時に、習得したらしいのです」志茂田が言う。「今のは、『覚えていろよ、くそったれ。声が出るようになったら、これまでの分、さんざん罵ってやるからな』という意味ですね」

 無口になっても、相変わらずのやかましさは変わらない。

「でも、何でこんな姿になっちゃったの?」わたしは桑田に向かって尋ねた。

 桑田はのど元で腕をせわしなく動かす。

「『うるせえ、お前には関係ねえ』だそうです」と志茂田。

「ふーん、そう。じゃ、帰ろうっかなぁ」わたしは立ち上がりかけた。


「まあ、お待ちなさい」わたしの肩をつかんで、座り直させる志茂田。「むぅにぃ君、わたしが訳を教えて差し上げますよ。桑田君はですね、ある物が欲しくて、欲しくて、たまらなかったのです」

「欲しい物?」

 桑田はむすっとそっぽを向いている。

「そうです。桑田君にとって、それこそどうしても手に入れたい物です」

「だったら、買えばいいのに。それとも、すごく高い物なの?」

「お金があれば解決する、とも限りませんよ。現に、あなたはタダで手にしたではありませんか」志茂田は言った。

「えっ?」わたしは思わず、聞き返す。桑田も驚いた顔をして向き直った。


「そら、あなたはついこの間、携帯のストラップを変えたでしょう?」

「あ、これ?」わたしはポケットから携帯を取り出す。ぶら下がっているのは、テレビ・アニメ「2人でプリクラ」のフィギアだ。チョコレートのオマケで付いてきた物である。

 桑田の目がストラップに釘付けとなる。

「むぅにぃ君にとってはただのオマケでも、欲しい者には、それこそ『喉から手が出る』レア・コレクションなのですよ」

「へー、こんなのが……」まじまじとフィギアを見つめる。「あ、もしかして、桑田、これが欲しかったんだ。だったら、あげるよ。別にお気に入り、ってほどじゃなかったし」


 携帯からストラップを外すと、桑田に差し出す。「第3の手」が手話で聞いてくる。

「『いいのか? あとで返せっつったってダメだぞっ』そう、言っています」志茂田が通訳をした。

「子供じゃあるまいし、そんなこと言わないよ」わたしは呆れる。

 桑田は泣きだすんじゃないかというほど喜んで、「プリクラ」のフィギアを受け取った。

 喉から生えていた腕が、しゅるしゅると音を立てて引っ込んでいく。

「あ゛ーっ、あ゛ーっ……」桑田は喉をさすりながら声を出した。いくらかガラガラしているが、ようやくいつもの声が戻った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 2人でプリクラ……に笑ってしまいました。脳内に主題歌まで流れましたよ。
[良い点] いつもやかましい桑田くんですが、声が出せないとなると、それはそれで物足りない気もします。 それにしても、喉から手が出るとは、なかなかユニークな人ですね。
[一言] 桑田さん、そんなものが欲しかったのですか…… レアではあるんでしょうけどね(^^) ひとつ質問ですが、むぅにぃとは、はかせるオムツのことですか?
2014/10/25 05:33 退会済み
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