神子姫の言い分
神子姫の本音を色々な視点から書いてみようかと思いました!
その後とかも書く予定です!
――昔、昔。
女神は子を人にしました。そしてこう仰ったのです。
“争いを止めてくれぬか”
子はひとつ頷いて空のように澄んだ碧髪を靡かせ、海のように深い紺眼で慈悲深い眼差しを。
かくして子は女神の願ったとおり争いを諌めある国の王太子殿下と結ばれたのです。
女神は2人に祝福を与え、彼の国に豊かさを恵みました。
そうして、新しく作られた国の名は――
コレが私の母国の建国神話であり、現在どっぷりとはまっている否嵌められた御伽噺なのです。
「シェリア」
「はい、陛下。離縁いたしましょう」
にこり、言いたいことがあるけど後ろめたくて言えないからどうしようと悩んでいる陛下なんて見ればわかります。だから、私が先に申し上げたのですよ。
「神子姫!」
聖神官の位を持ちながら陛下の側近をも務める優秀な臣下であらせられるヒルルク様が焦ったようにお呼びになられます。今更何を。と言いたいけれど現時点では私はまだ王妃であるためにそのような真似が出来ないのです。
「……はい?」
「いきなり何を申されるのですかっ!……離縁など!」
「いきなり、ではないですわ。」
私はゆっくりと言い聞かせるように驚いてでもホッとしてる陛下と真っ青になっているヒルルク様を見ながら話します。ふわり、といつもの笑みで笑ってやるとあからさまに顔を背けられる陛下と何かに気づいたのか此方の出方を窺うような視線を投げかけてくるヒルルク様。
だから私は自ら火の中に飛び込んで行くのです。
「陛下、ユウカ様の元へお渡りになられたのでしょう?」
「………っ!それはっ」
「知らないとお思いでしたか?それとも何もなかったと仰られますか?それは無いですよね。」
「……シェリアッ!」
「だからですね陛下。王妃は立場上無理でも側室で、しかも王妃がいなければ実質は彼女が王妃です。外向的には不利になりますがいかんせんそれは陛下の腕次第でどうにかなります。」
真っ直ぐに陛下を見る私はもはやあなたに何の恋慕も抱いてはいないのです。ただ残るのは裏切られた悲しさ。あのとき誓った言葉は偽りだったということが辛いのです。
女神から力を貰い、得る物なんてあるはずのない戦からこの国に住んでいた人々を守っただけのこと。沢山のひとをこの手で切り倒し進んで行った路。その傍らで大丈夫、だと言い聞かせてくれたのは紛れもなく彼だったのです。
彼がまだ王太子殿下で私がまだ村娘だった頃、神子としての力を発現させ神官様に連れてこられこの国を救ってくれと今では義父になった昔の国名の最後の国王陛下から頭を下げられあれよあれよという間に神子として、神子姫として、持ち上げられていったのです。辛いこともたくさんあり、村娘として育った私に教養などひとつも持ち合わせていないことは当たり前。だからこそ舐められぬようにと必死に知識を詰め込まれたのも今となっては昔の話。
「あなたがあの時、彼女に心奪われておられたのは一目でわかりました。……そして彼女も。」
空間の狭間、というところから落ちてきた年端も行かない少女。この国ではあまり見られない綺麗な黒髪と不安げに此方を伺う瞳、全てが儚げな印象をもたらす。
彼女の姿を見た瞬間、陛下が息をのんで熱のこもった瞳で彼女を見つめていたのはすぐに気がつきました。そして彼女も。だから私はそのときにいずれこうなるとわかっていました。わかっていたからこそあえて陛下を引き留めるようなことも彼女に何かを働きかけることもせずただ2人の行く末を傍観していたのです。
「神子姫…」
「ヒルルク様、彼女をここへ。」
ヒルルク様は私を見て何かに気付いたのだろう。静かに一礼して部屋を去っていった。残された私はゆっくりと息を吐き、そして祈りを乞います。
女神シェリリアール様、この国の繁栄をこの目で、俗世で見届けられず申し訳ありません。けれどこれからは貴方様のお近くでこの国の、この世界の行く末を見守っていきたいのです。どうかお許し下さい。
閉じていた瞳をゆっくりとあけて私は居住まいを正す。
彼女が扉の向こうでこれから起こり得ることに恐怖で体を震わしている。ヒルルク様はそれを見ながらも冷たく入りますよ、と声をかけられました。
「失礼いたします、王妃様連れて参りました」
「ありがとう、大丈夫よ。とって食いはしないわ」
王妃を見て隣にいる陛下を見て、何かを悟ったのでしょうか。立っているのが精一杯という面持ちで何とも自ら悪役のようだと笑えてきてしまいます。
「陛下、私が望むのはふたつです。ひとつは私の聖堂入りを認めること、ふたつめは私の爵位返上を許可すること。」
にこりと微笑みながら陛下に離縁する条件を突きつけ、立ち上がる。ヒルルク様は焦ったご様子でしたのでこの後すぐさま説得にくるでしょうが私の決意は固いのですよ。陛下は驚きで冷静な判断が出来てないと見受けられるので私が神子姫として国内外にもたらす影響など今の頭の中にはこれっぽっちも入っていないのでしょう。そして爵位返上の意味を理解していない。
「よろしいですね、陛下。あぁ、ユウカ様。あなたには今日から生活が色々変化していくと思うけれど頑張って下さいね。」
ゆっくりと扉に向かって歩く。驚いて現状を理解できてないことが丸わかりの表情をした2人を見て今までで一番綺麗に微笑むのです。
「これがあなたの御尊顔を拝見できる最後になるでしょうね。今まで幸せでしたわ。アレク様、私はあなたを愛していました。どうぞユウカ様とお幸せに。次代の御子様に恵まれますように、女神シェリリアール様の御加護がありますように。――では陛下、ユウカ様。御前、失礼いたしますわ」
淑女の礼をとり私は陛下の元を去ったのです。
聖堂入りしてから半年後、陛下はユウカ様をただ独りの側室として公務に連れて行きましたが結果は見るに耐えないものだったとか。その結果臣下にあれこれ言われて守り通せ無かった陛下はユウカ様をユウカ様付きの騎士様下賜し私を呼び戻すために聖堂まで足を運んできたのでした。
だからといって、私元鞘に戻るつもりは毛頭ありませんので神子姫の権力を駆使して陛下を追い返そうと思います。