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異界の悪魔が恋をして

はらはらと、花が散ります、春4月

作者: 縁ゆうこ


 毎年この時期に新入社員が入って来ると、うちの会社では歓迎会を夜桜見物に当てる。

 まあ、歓迎会がなくても、この時期は花見をしたいと国籍関係なくリクエストがあるから、1日はそれに当てるんだけれどね。


 今年はね、もうそれはそれは可愛い女子が総務に入って来たのよ~。まだ20歳ですって!

 リリー・エドワーズ。それが彼女の名前。

 彼女のまわりではね、この春もうひとつおめでたいことがあったんですって! 長年お父様と二人暮らしだったんだけど、家族が増えたそうよ。ものすごーく優しいお母様と、ものすごーく怖い(彼女が笑いながらそう言ったのよ)お姉さまが。


 それにしてもうちの総務って、なんであんなに可愛くて天然な子ばっかり集まるんだろう。類は友を呼ぶ、かしらね。

 だから今年は歓迎会。

 そして、毎年使う店も決まっている。

 


「うわぁ~、なんなんですか~、ここ」

 会社に入って初めての飲み会が夜桜だったのは、ラッキーよね。

「ここはね」

 同じ総務の先輩と言うことで、那波が説明している。


 この一帯は、その昔、桜の名所として有名だったのだが、管理する人がいなくて、シーズンには観光客や花見客が入り放題。バーベキューはするわ、木の根っこは踏みつけ放題だわ、枝は切るわ、ゴミは放置するわ……

 とにかく心ない人たちのし放題で。

 桜はそれに耐えきれず、花を咲かせなくなったり、咲いてもすこしも見栄えがしなくなったりしたそうだ。そうなると、今までどんちゃん騒ぎをしていた連中は見向きもしなくなり、それ以来ここらは長いこと荒れ放題だったらしい。


 けれどある日、ここが昔、桜の名所だったと聞いた料亭の若主人が、あることを思いつく。

 この土地を、料亭、レストラン、雑貨など、職種に関係なく、皆で資金を出し合って買い取り、整備して、桜を傷つけないような方法で再生させようと。


 ここをもう一度、桜の名所にしたい。


 その思いで集まった、店舗のオーナーが協力し、話し合いを重ねて重ねて出来上がったのが、この桜の楽園だ。

 小高い丘をかかえる一帯に、もとからあった、あらゆる種類の桜が再生をはたし、木々を連ねている。咲く時期もバラバラなので、ここはかなり長い事花見が楽しめる。

 そして、当然ながらバーベキューも木の下での宴会も禁止。

 あちこちに、店主が力を入れまくった凝った店が点在し、それらは回廊でつながっている。木の根を傷つけないよう工夫された作りの回廊は、その見せ方にもひとつひとつこだわりがあり、毎年来ても全然飽きないのよね。私たちは、新人さんを案内がてら、ひとまわり桜見物をしたあとで、レストランへ向かう。


 うちの会社が使うのは、しだれ桜を見上げるように作ってある回廊の先にある、イタリアンだ。とはいえ、いつものごとく、カジュアルな立食でね。


「壮観…」

 レストランの入り口にある、ライトアップされた見事なしだれ桜を見上げて、ウットリしながら言う、新人のリリー。そうなのよね~、このしだれ桜も毎年見るんだけど、全然飽きないほど美しいの。


 お店は3階建てになっており、レストランは最上階。エレベーターで3階へ上がり店へと入り、いつも宴会を開く少し大きめの部屋へ入ると…


「うわぁ~」「なんて素敵…」

 目の前が大きな窓になっており、そこから見る桜たちは、ちょうど目の高さだ。

 ライトが美しくそれらを照らし、風が吹くたびに木々がしなり、それにあわせて花びらが舞い上がり、舞い落ちる。

 ああ、今年も間に合って良かった。


 素敵な春を、ありがとう。






お読み頂いてありがとうございます。

チョッピリ久しぶりの投稿です。

今年は桜が早いので、ちょっと書きたくなった超短編です。

それにしても、那波の名前が出てこなかったら、「異界」シリーズとは気づきませんね(笑)

リリーはこのあと、どのように皆にかかわっていくのでしょうか。

どうかお楽しみに。

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