もふもふパニック 4
「そうです。クッキー作りを思い出して下さい」
「「クッキー?」」
ベッドの上に胡座をかいた始祖様の前に、子供達は並んでお座りしている。「なんでクッキー?」と、小首を傾げる二人の姿は、物凄く可愛い。私も反省したばかりだと言うのに、可愛いのが悪い!!と逆切れしそうなほどに癒し系毛玉ちゃん達だ。
「ルッツォの作ったクッキーはどうでした?」
ソファに腰掛けたディーバさんに促されて私も座ると、彼は子供達に優しく話しかけた。
「カチコチで凄かった。な?マルケス」
「うん。美味しくなかったね〜」
カチコチクッキーを思い出したのか、子供達は軽く左右に首を振っていた。
「それは粉を振るったり、バターをふんわりさせなかったからですよね?」
「「はい」」
「今、お二人が獣還りしているのは立派な大人になる為に、体が準備しているからなのです」
「「準備?」」
子供達の問い返しに、今まで水の流れのように淀み無く答えていたディーバさんが口をつぐんだ。「ヒントはたくさんありますよ。自分達で答えを見つけて下さい」という事なのだろう。じっと顔を見合わせて以心伝心していたアルゴス君とマルケス君の首が縦に振られた。
「わかった!!粉振るったりみたいに、俺達の体もちょびっとづつやらないとダメなんだな?」
「そっかぁ。めんどくさいってズルしちゃうと、クッキーみたいに、ヘンテコな大人になっちゃうんだよね?」
「はい。その通りです。アルゴス様もマルケス様も大人になるお勉強を頑張りましょうね」
「「はい!!」」
気合い十分で頷いてベッドから下りて、私へ「褒めて褒めて〜」と言いたげに駆けてくる子供達を抱きしめ、頬擦りして極上のふかふかもふもふを堪能する。
それにしてもうまいな〜と、ディーバさんのやり方に感心する。子供達の興味のある、馴染みのある出来事から連想させて、自分達で考えて答えへ導くなんてさらりと出来る彼は凄い。答えを押し付ける方が大人は楽だし、実際、忙しさにかまけて、ついついやりがちだが、それでは子供の学力は育たない。
「では、私は失礼させて頂きます。 アルゴス様、マルケス様、ミーナ様から色んな物を学んで下さいね」
「「はい!!」」
「お忙しい中、申し訳ありません」
頭を下げる私に、ディーバさんは笑顔で応えて、扉の向こうへと消えていった。
「あ!!」
「なんだ?」
「どうしたの?」
唐突に、今の流れには関係ないが、人としてある人に失礼を働いていたことを思い出した私の素っ頓狂な声に子供達も釣られたのか、慌てたように聞いてきた。
「おじさんの名前。セインさんのお父さんから名前聞いてない」
「「あ!!」」
「今から行こう!!」
「そうだよ!!行って聞けば良いよ〜。賛成〜」
「だめだ」
ディーバさんの退室と共にソファに移動していた始祖様は、はしゃぐ子供達を低い声でいさめて、首根っこを掴み、プランと宙に浮かせる。
「「え〜?なんで〜?じ〜じ意地悪〜」」
「ば〜か。お前ら、今、もふってんだろ?迷子になったら二度とミーナちゃんと会えねーぞ?」
「「大丈夫!!」」
本当にもう、大丈夫じゃないでしょう?
根拠のない自信に溢れる即答はいかがなものかと、痛むこめかみをさする私より一瞬早く、始祖様が口を開いた。