もふもふパニック 3
彼等に簡単に「大丈夫」とは言えない。彼等を守り育む立場の自分の失言により、きっかけを作り、こんなにも不安に怯えさせてしまった今、安易な気休めは出来ない。尻だなんだと奇妙な妄想をして浮かれていたから、失言も出たのだ。本当にアルゴス君とマルケス君には謝っても謝りきれない。
「ごめん。アルゴス君、マルケス君、ドキドキさせちゃって本当にごめんね」
ぎゅっと抱きしめた私には見えなかったが、子供達は小さく頷いていたと、後にディーバさんが教えてくれた。
「そんなに心配されなくても大丈夫ですよ?いつ戻るか分からないだけで……」
ディーバさんの言葉を遮るようにドカンッとけたたましい悲鳴を上げて扉が開かれた。
もう分かる。これは始祖様だ。
「よ〜う、泣き虫毛虫ども〜。城中にお前らの泣き声響いてんぞ〜?は〜ずかしぃ〜。あんま泣いてっと、毛虫になってポイッて捨てられるぞ〜」
狼な姿で登場した始祖様は茶化した後で器用に「ぷぷ〜」と笑っている。いつもなら食ってかかるだろうアルゴス君とマルケス君は、無言で恨めしげに見つめるだけだ。
「なんだよ?めでてー事だっつのに」
「「なにが?」」
むすっとしながらも、上目遣いで始祖様を見た子供達に、にんまりと笑った。
「アルゴスとマルケスが、ちょびっと大人になったって体が判断したから、毛虫になってんだよ」
「「大人!?」」
ガバッとばかりに顔を上げて目を真ん丸にしている子供達に、にんまりと始祖様は笑う。やはり、子供達には「大人」と言うキーワードは物凄く心の琴線を擽るようだ。「泣きすぎると毛虫になる」や「ポイッて捨てられる」などのささやかなからかいは最強の呪文の前ではスルー対象でしかないらしい。
「ママ!!下ろして!!」
「お願い!!ちゃんとじ〜じに聞かなくちゃ!!」
急に元気を取り戻した子供達は、「早くはやく」と急かしてくる。すぐに下ろすと興奮気味に尻尾を振りながら、始祖様へと跳びはねていった。
「俺達、大人!?」
「戻ったら、ママを抱っこ出来るようになってる?」
始祖様に纏わり付いて、きゃっきゃとはしゃぐ子供達の気持ちが晴れやかになるのはうれしいのだが、なんとも言えないもやっと感を覚える。そんな私に気付いたのか、ディーバさんがほほえましい物を見る瞳で私を見ていて、慌ててしまう。人の姿になった始祖様が、子供達の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる。
「ば〜か。一気に大人になったら、ミーナちゃんの言うズルになんだろが」
「「あ!!あ〜」」
残念そうな声を上げる子供達を両肩に乗せた始祖様が諭す。
「ちょびっとづつ、だ」
「「ちょびっとづつ?」」
「そうだ。ズルしないでいろんな事やって、大人になる為に勉強したから、一回目の獣還りになってんだ」
「「じ〜じ、難しい」」
眉間に皺を寄せた子供達にディーバさんが口を開いた。
「アルゴス様、マルケス様、獣還りはお勉強をたくさんして、大人になる為の階段を登っても良いと体が判断した時になるものなのです」
「「大人になる階段?」」
ディーバさんの補足説明を、子供達は一言も聞き漏らすまいと真剣に耳を傾ける。