もふもふパニック 1
そこから先は話が早かった。商人代表と言えるおじさんと宰相のディーバさんと料理人代表のルッツォさんの、フォレストの理想と現実、やりたい事、やれない事を互いに活発に意見交換していた。時折、意見を求められる他は手持ち無沙汰となった私は、三人には申し訳ないが、セインさん指導の下、子供達と一緒に集合訓練を習っていた。
三人の意見も纏められて最終的に、ジャムとキャンディーの講習会をする事、品質を保つ為と大量に生産する為にも是非とも設立したい国営工場は首脳陣全員で協議してから決める事が決定した。私への課題要望として、コロッケやミネストローネは食堂で出せないか?又、出せるなら、手に持って食べ歩き出来るような何かを他にも提案してほしい。野菜を使った日保ちする食べ物を提案してほしいとの二件だった。出来る限り頑張ってみると了承すると、おじさんもルッツォさんも満面の笑みを浮かべていた。続けてディーバさんが、「つきましては、キャンディーやジャムはお土産として渡せないのです。ご容赦下さい」との言葉にはおじさんもセインさんもちょっぴり残念そうだった。
どこから情報が洩れるかわからない以上、仕方ないとは思うが、家庭料理しか作っていない私はなんともしょっぱい気分になる。
そんな機密事項になるほどたいした料理じゃないのに良いの!?ってゆーか、パスタとかのもう少しオシャレなの作ってくようにしますからぁ。
などなど心の中で謝罪する。
「貴方達がミーナ様に面会した事とミーナ様の料理について、公布までは、申し訳ないが口外しない事をお願いします」
ディーバさんの言葉に親子は間髪入れずに頷いた。
「はい。もちろんです」
「はい。 大変だろうが、お姉ちゃん、よろしく頼まぁ。遅くまで付き合わせて悪かったな。坊主達、おやすみ。がっつり寝て、おっきくなれよ」
おじさんにくしゃくしゃと頭を撫でられ、目を細めた子供達の尻尾は雄弁で、勢い良く左右に振られている。
「「はい!!おやすみなさい」」
親子を見送った後、約束通りに三人で入浴してマーキングしあって、ベッドに潜り込んだ。色んな出来事があったせいか、毛玉ちゃん達は横になるとすぐに寝息を発て始めた。
いや〜!!ぬいぐるみ!!もふもふ天使が降臨された〜!!降臨って神様や仏様が下界に降りてくる事だって知ってるけど!!彼等は同等よ〜!!カメラ!!カメラ〜!!
子供達のあまりの可愛さにとち狂った私は、中々寝付けなかった。
恥ずかしい〜!!
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生暖かい何かが両頬に忙しなくあたる。
なんだ?と確認しようと上げた手は頬に行く前にもふもふに阻まれる。
もふもふって……
「アルゴス君!?マルケス君!?」
思わず跳び起き、枕もとに視線をやると、そこには昨夜と同じ、獣姿のままの子供達が居た。彼らは私が起きた事を確認すると、くしゃりと顔を歪めた。
「ママ、おれだぢぃ〜」
「戻れないよ〜」
頬を伝って落ちるはずの涙は立派な毛皮に阻まれて、玉となり濡らすだけでうまく落ちない。
かわっ……!!可愛い〜。
アルゴス君とマルケス君の心の中が穏やかでないところか荒れまくっているだろう事はよくわかるが、可愛いものは可愛い。奇声を上げて身もだえしそうになる自分自身を叱り付ける。
「お゛で、だぢぃ〜、ゼインに、ぎだい、や゛っだ、がら〜」
「も゛ぅ、いじばる゛、いばない、がら〜」
「「う゛ぁ〜ん」」
私の膝に縋り付いたままで号泣する毛玉ちゃん達を撫でるしか出来なかった。