森の賢者 2
人の姿になった始祖様は予想に反して、背は高いが華奢で秀麗な男性だった。せっかくのキラキラしい容姿なのに、柄の悪さがそれらを凌駕している為に、残念な美形さんとなっている。
「ちび達のママなら、じーじの俺から見ると嫁だな。人妻サイコー!!」
これ又、残念な事をはしゃぎながら言う始祖様に、誰の妻にもなった事は無いので、人妻と認識するのはやめてくれと最上級の笑顔のままに告げる。第一、情報量が絶対的に少ない現在、軽々しく今後の人生を左右する発言など出来ない。
「じゃ、ミーナちゃんは俺の妻になんない?国王からは遥か昔に引退してっから問題ねーし!!」
私の意見は無視ですか?
「妻とはなんだ?」と騒ぐ子供達に、「大人の男女がずっと一緒に暮らす事を結婚と言い、結婚した男を夫、女を妻と呼ぶのだ」とディーバさんが教える。ふんふんと聞いていた二人は意味を理解すると始祖様に抗議の声を上げる。
「ダメだっ!!ママは俺達とケッコンするんだっ!!」
「じーじのばか〜っ!!ママは僕達のママなの〜!!」
「なんだよ。いーじゃねーか」
ニヤニヤしながらからかう始祖様と応戦する子供達に、ちっとも先に進まない状況に苛立ったのか王様が一喝した。
始祖様は、国王として天寿を全うした後、本人にも仕組みはよくわからないらしいが、姿も記憶等もそのままに、膨大な知識を森と共有した状態で復活したそうだ。国が発展すると共に生まれる歴史や黒歴史、儀式や禁断の儀式など、善悪関係なく全て知識として森と始祖様に蓄積されていったという。その中に“召喚の儀式”もあった。知っているからといっても幼子に教えるなど如何なものかと詰め寄ると、それは仕方が無いのだとディーバさんが教えてくれた。
「請われた知識を与える事が始祖様が賢者と呼ばれる所以にして存在理由と言われているのです」
賢者!?この残念な美形さんが賢者!?
大変失礼なツッコミは心の中に留めておく。
曰く、知識を森と共有する者は、相手が善人であろうが悪人であろうが欲した知識を与えなければ消滅してしまうらしい。賢者ならば余計に、善悪の判断を自分でつけるべきではないのか?とも思ったが、賢者=辞書と置き換えて納得することにした。辞書は使い手を選べない・・・・。
「ですから、始祖様がお二人の疑問を拒む事は出来なかったのです」
「知らぬ事とは言え、始祖様には大変失礼を申し上げました」
頭を下げる私に、始祖様は「良いって事よ」と笑って許してくれた。続けられた「お詫びにチューしてくれても良いぞ」というそれは無視した。
「つーかお前ら。二人だけじゃ絶てぇ危ねーから、俺が付き合うって言ったじゃねーか」
呆れたように言う始祖様をキッと睨みつけたアルゴス君は、興奮したのか椅子に立ち上がった。
「俺達のママだぞっ!?じーじはママ要らないじゃんっ!!」
「じーじも一緒だと、僕達だけのママじゃなくなるねって」
「だから、俺達、頑張ったんだぞ!!」
頑張らなくて良い。
どうして子供は、大人からみて、頑張って欲しくない事ややってほしくない事に力を注ぐのだろう。どうやら二人は、始祖様が一緒だとママを共有しなければいけないと考えたようだ。自分達だけのママがどうしても欲しかった二人は誰にも内緒で、儀式を実行したと。
「・・・・ったくよ〜。ミーナちゃんは、こいつらになんて言われてこっち来たんだ?」
ポリポリと頬を掻きながら問い掛けてきた始祖様を遮り、アルゴス君が叫ぶ。
「違うぞ!!ママが俺達に聞いてくれたんだ!!」
「そうだよ!!だって僕達、お話しできなくなってたんだもん」
「馬鹿っ!!マルケス!!」
「・・・・あっ!!」
言ったマルケス君の口を、慌てたようにアルゴス君が塞ごうとする。内緒にしておこうねと約束したのだろうそれをポロリとこぼしてしまったようだ。
「どういう事だ!?二人共、説明しなさい。」
嘘やごまかしは許さないとばかりな厳しい表情の王様に、二人は震え上がっている。
「「あのね・・・・」」