意見交換と晩餐 5
「夜分にすみません」
「せがれがやらかしちまって……坊主達も本当にすまなかったな」
セインさんが頭を下げると、おじさんも意味合いは違うが彼に倣った。
「父さん!!俺にじゃないんだから!!」
「お?そうだったそうだった。アルゴス様もマルケス様もすみませんでした」
すかさずツッコむセインさんに頭を掻きながらおじさんが言い直した。すると今度はディーバさんが待ったをかけた。
「いえ、昼間通りの物言いでお願い出来ますか?」
「「良いんですか?」」
ハモりながら聞き返す親子に、ディーバさんが微笑みながら説明する。
「アルゴス様もマルケス様もまだまだ勉強中ですので普段通りでお願いしたいのです」
恐らくディーバさんは、大人が身分を知って態度を変える様を見せたくないのだろう。意味も分からぬまま、子供の自分にペコペコと頭を下げる大人達の姿に、親の権力ではなく、自分が偉いからだと錯覚して成長し、自身が働くようになってから鼻つまみ者や腫れ物として扱われている人物を何人か見てきた。その事実に気付き、憤慨する者、反省して努力する者、気付かずに胸を張り笑われる者、本当に様々居た。ディーバさんはアルゴス君とマルケス君が、自分の身分や王族としてどう振る舞わなければならないのかを知る前に、平伏す大人に自分達は偉いから傍若無人に振る舞っても良いと勘違いする事を恐れているのではないかと推察する。
事情を察したのか、おじさんはにっかりと笑った。
「大丈夫だ。セインにはおれがよーく言い聞かせとくからな。ほんとに悪かったな」
言って、わざわざ回り込んで毛玉ちゃん達の頭をガシガシと撫でた。擽ったそうにしていた子供たちが言う。
「俺達、セインに意地悪したから、ごめんなさい、おっちゃんは要らないよ?」
「うん。セインもママをとらないってお約束してくれたから、良いの〜」
きょとんとして言うアルゴス君と、何故か、含みを持っているように見える小悪魔的な笑顔を浮かべるマルケス君に、おじさんはホッとしたように頷き、セインさんは盛大に顔を引き攣らせた。
この席には、子供達と私の付き添いでディーバさんしか居ない。「ミーナ指名の席に、王も含めてぞろぞろと連れ立っては話す所でなくなるだろう」との理由で、ソルゴスさんとエリゴスさんは王様に従ったからだ。何故か、エリゴスさんが残念そうだったのは、便乗して自分もジャムやキャンディーを食べたいと思っていたのかもしれない。どうにか場が落ち着いてきた所で、侍女さんが用意してくれた、ジャムとキャンディーをセインさんとおじさんに勧めた。薄切りパンも用意しているあたり、感心する。
「どちらも砂糖と果物だけでつくるのですが、こちらがジャム、こちらがフルーツキャンディーとなります。ジャムはパンにつけて召し上がってみて下さい」
毛玉ちゃん達が「良いな〜」と言い出しそうな視線を向けているのに気付き、「明日の朝ごはんに出して貰おうね」と言うと「なんで分かったの!?」とばかりに真ん丸に目を見開いた後で、嬉しそうに笑ってくれた。
いや、うん、犬も猫も笑ったり怒ったりの表情が豊かで良いね〜。って、王族と普通の犬猫と混同したら不敬罪かな?
瓶を掲げて光に透かしてみたり、スプーンで掻き交ぜて状態をみたり、匂いを嗅いだりしていたおじさんに、痺れを切らしたらしいセインさんが声をかける。
「父さん、夜に押しかけている事、忘れてない?」
「お?おう、そうだったな」