交易の提案 6
タオルの代わりに貰った紅茶を一口飲み、アルゴス君とマルケス君は、目を細めてほぅっと息を吐いた。
「私の居た世界では、砂糖の方が高かったんですが、こちらでは違うんですね」
私の言葉に合点がいったという風にふむふむと頷いてディーバさんが答えてくれる。
「ああ。だから砂糖の価格をお聞きになられたのですね。フォレストだけに限らず、砂糖は売れないから安いんです。逆に塩や酒は少々高くても皆が買いますので」
そっちか!!
砂糖は原産地であるからこそ安く、塩は海で作られるからこそ、輸送費などで高価となっていると思っていたのだが、もっと単純に、「安くても売れない。高くても売れる」だとは目から鱗だ。
「塩は私たちの食事は勿論、家畜の餌に医学にとなんにでも使いますが、砂糖は子供の飲み物に入れる程度ですので」
あれ?パンの発酵に必要だったんじゃないっけ?
「パン作りには使用しないのですか?」
「そうですね。パンには使いますがパン屋で使う程度で一般的にはやはり手が延びないようです」
ここはお菓子の存在は私が持ち込むまで無く、調理方法も焼くかサラダかスープしかなかったのだ。砂糖は無くても困らないなら、買わないだろう。毎日少しづつ摂取していかなければならない塩が高くて、食事から自然に糖分を摂れているから追加しなくても死にはしない砂糖が安いのは当然と言えば当然か。フォレストの果物は一口かじると果汁が口から垂れてしまう程で、さらに砂糖を足したのではないかと疑いたくなる甘さなのだ。砂糖に手を出す理由はますます遠ざかるだろう。
でも、そんな果物の美味しさを知っている皆に、お菓子が真新しさや珍しさだけでなく、恒久的に受け入れられるものだろうかと今更気付いて頭を抱える。
根本的なの忘れてどーすんの!!馬鹿!!一時的なブームで終わらせて良い問題じゃないでしょうが!!
「「ママ?」」
両隣に座ったアルゴス君とマルケス君に優しく頭を撫でられて我にかえると姿勢を正した。
「申し訳ありません。迂闊ながらたった今、気付いたのですが……」
それを口にすると、皆は目を丸くした後、柔らかく微笑んだ。
「大丈夫だ。ダメなら次の策をミーナは発てるだろう?」
失態を攻めもせずいなしてくれた上に、悪戯っ子のような笑みでウィンクしてくれる王様にただただ頭を下げた。
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「ジャムやキャンディーはその特製上、蟻や蜂などの虫が蜜に誘われて寄ってきやすいので、瓶に密封して販売する方法が良いかと思われます。ジャムは難しいですが、キャンディーは味一種類づつの大瓶に入れて、お客様の欲しい物を別の瓶に詰め、二回目からはお客様にお持ち頂いた瓶に入れて瓶代を省いた価格で販売するのも良いかもしれません。又、キャンディーは持ち運びしやすいのですが、熱に弱いので、暑い場所に長時間置くと溶けてしまう事もあります」
「ふむ。成る程な。旨いものには何でも寄ってくるか」
顎を撫でながら言う王様に頷いてディーバさんが口を開いた。
「虫対策は現在、各店舗ですでに魔法で対策していますから、特に混乱も問題もないでしょう。強いて言うなら購入後の取り扱いですかね。瓶に虫よけと冷温の魔法をかけてしまえば……いっその事、そのニ種類の魔法をかけた瓶を作れないかヴォルケーノにお伺いをたててみましょう!!ミーナ様!!キャンディーとジャムはありますか!?」
私達をおいて、興奮しきりなディーバさんに頷く。
「はい。厨房にあります」「厨房ですね!! 陛下!!席を外すご無礼、容赦願います」
善は急げとばかりにディーバさんは厨房へと走っていってしまった。
「すまんな。ミーナ、だが、これでもう後戻りは出来ないぞ?」
「はい」
そうだ。容器の発注をかけてしまえば、もう後戻りは出来ない。提案のつもりだったが、もうプロジェクトとして動き始めてしまった。
「頑張ります」
「「お〜!!」」
私の言葉に、右手を振り上げ気合いを入れた子供達が可愛かった。