交易の提案 5
エリゴスさんの膝から飛び降りて、私にしがみつきながらアルゴス君が叫ぶ。
「ママが居るから俺達、ニコニコなんだからな!!」
マルケス君は声も無くコクコクと頷いている。ディーバさんへの宣言に、感動してくれたらしい子供達をぎゅうっと抱きしめる。
「アルゴス君、マルケス君、私を選んでくれてありがとう」
「俺達のママになってくれてありがとう!!」
「ママ、ずぎぃ〜……う゛ぁ〜ん!!」
「泣くな!!マル……うわ゛〜ん!!」
嬉しい言葉に涙が出そうだったが、感極まったのかわんわんと泣き始めた子供達を、ただただ強く抱きしめていた。
□■□■□■□■□■□
どうにか落ち着いたディーバさん、アルゴス君、マルケス君は一様に蒸しタオルを目に当てていた。王様に命じられた侍女さんが、お茶を用意してくれる時に持ってきてくれたものだ。さりげなく場を見極めて言われた以上の成果を出す彼女達は正しくプロだ。
「「まだ〜?」」
「まだだ。後五分だ」
足をバタバタさせながら言った子供達に、涼しい表情で王様が応えた。
「「お茶冷めちゃうよ〜」」
「大丈夫だ。アルゴスとマルケス、ディーバの物はまだいれて無い」
「「う゛ぅ〜」」
冷静に、だが、優しく微笑みながら応える王様に、我慢出来ない子供達はとうとう言葉に詰まり、テーブルに突っ伏した。彼等の気を紛らす為に、提案の話に戻す。
「先程はメリットしか言いませんでしたので、デメリットもお話致します」
「ん?良いのか?それを聞いてミーナの案を拒否する可能性も出来るんだぞ?」
不思議そうな顔をする王様ににっこり微笑む。
「はい。デメリットも知らないままの博打に国全体で乗る必要はありません。良い点悪い点も踏まえた上で考察されなければ、後々出てくる懸念に立ち向かう事は出来ません」
そう、後から必ず出るだろう不満や不平、システムの綻びは、デメリットから検討し、トラブルシューティングとしてまとめておけば対処はしやすい。逆に、デメリットの何もかもが全くの未知、無知であった場合は対処どころか、原因究明からやり始めなければならない為、時間も労力も長くかかる。
「確かに。被害や損害は少ない方が良いですね。デメリットも併せて検討出来れば、利益率もプラマイ計算出来ますし」
タオル越しなので、くぐもってはいるが、失礼ながら、ディーバさんは宰相らしく頷いている。因みに彼は顔全体をタオルで覆っている。酸欠で倒れてしまわないか、見ていてハラハラする。
時代劇で濡れた和紙を顔に張り付けて……ってあったよね!?
「先ず、砂糖、これは大量に使う為、出来れば安価である方が望ましいですがいかがでしょうか?」
「砂糖になる植物は様々にありますし、現在、流通している物は、フォレストで作られている為、安いですね。むしろ、生活必需品とも言える塩の方が高いです」
確かに、嗜好品とも言える砂糖より、生命活動の維持に必要な塩は高価だろうし、高いからと避ける事は出来ないだろう。
「では、砂糖と果物の調達は容易と考えても良いでしょうか?」
「はい。その点はご心配……」
「「まだぁ〜?」」
ディーバさんの言葉を遮り、痺れを切らした子供達の高速バタ足付きの催促に、私達大人が全面降伏したのは言わずもがなの出来事だった。
わかってます。親バカですよね。