交易の提案 3
「ごめんね?今、二人が持ってるキャンディーを作るにはいろんな人のおかげなんだよ?まず、果物は誰かが育てたり、採ってきたものなのはわかる?」
「「うん」」
調度良い機会だから、分かりやすいようにお金の流れについて教えようと、子供達の目を見つめながら言うと、にこっと笑ってくれた後で頷いた。
「果物や野菜を作ってる人達を農家って言うんだけどね、農家の誰かが野菜や果物を渡してお金を貰って、お砂糖は誰かが育てた植物からお砂糖にする為に誰かが頑張って作って、お金を貰うの。出来た砂糖と果物を誰かが運んでお金を貰って、誰かがお店に並べて、アルゴス君とマルケス君が良いなって選んで買って、買った物を皆で作って、やっとキャンディーになるの」
「すっごいいっぱいの誰かががんばってんだな」
「おじさんがいらっしゃいっていうまでに、いろんな人が頑張ってるんだね」
王様を真似たのか、アルゴス君もマルケス君も腕を組んでしかつめらしく頷いた。その大人びた姿に奇声を上げて身もだえそうになる自分を必死で律する。
「そう。そうやって頑張っている人達も最終的には物が売れなくちゃお金は手に入らないの」
ぱっと手を開いて「なんにも無いよ〜」のポーズをとると、子供達は勢い込んだ。
「なんでだ!?農家の人と砂糖作った人と運んだ人はお金貰ってんじゃん」
「そうだよね?売れなきゃお金貰えないのおじさんだけじゃないの?」
「すごいね。もうそこまで分かったんだ」
「「えへへ〜」」
なんて賢いんだ!!と抱きしめると、子供達はほにゃりと相好を崩し、照れたように笑ってくれる。王様達は、子供達の邪魔をしてはいけないとおもっているのか、一切口は挟んでこなかった。
「あのね?一番始めにお金を払ったのは、お店に並べたいな〜と思った人なの。だから、物が売れないと皆が困っちゃうの」
「「わかった!!お金がいっぱいの誰かの間をくるくる回ってるんだ!!」」
目を丸くして子供達が叫んだ。
「そう!!凄いよ!!アルゴス君!!マルケス君!!二人とも頭良いね!!」
興奮のあまり、腕の中の子供達にほお擦りしてしまう。
「ママが教えてくれたからだぞ」
「うん!!くるくる回るの、分かった〜」
万歳をした後、子供達は持っていたキャンディーの瓶を二人で回し始めた。どうやら、「くるくる」と言う響きと意味が気に入ったらしい。
「くるくる回るには、買ってくれる人と売ってくれる人が必要になるの。でも買ってくれないなら?」
「おっちゃん、ピンチじゃん!!」
「そうだよ!!おじさん、泣いちゃうよ!!」
受け取りあいっこをしていた子供たちがピタリと動きを止め、「一大事だ!!」とばかりに慌てだした。
「アルゴスとマルケスの言うおじさんとは、買い物をした果物屋の店主の事か?」
今まで傍観者だった王様が口を挿むと子供達は大きく頷いた。
「「はい!!」」
椅子からぴょんと下りた子供達は王様に駆け寄る。
「売れないからって俺達にいっぱいくれたんだ!!」
「そうなの!!おじさんがママのキャンディーでフォレストが栄えるって言ってたの!!」
身振り手振りで教える子供達に皆が目を細めて微笑んでいる。
「フォレストの民は国を思ってくれているのだな」
嬉しそうなはにかむような笑顔を見せる王様にソルゴスさんが大きく頷いている。どこからか聞こえて来た啜り泣きは鏡の向こうのディーバさんだろう。
「そうですね。ここに暮らす皆が国を思っているからこそ、フォレストは優しい気配に包まれているのだと感じます」
お世辞ではなく本心から言うと、王様は一瞬、目を丸くした後、ふわりと綺麗に笑った。