森の賢者 1
ディーバさんに薦められ、アルゴス君とマルケス君と一緒に入浴した。初めてのママとのお風呂に興奮してはしゃぎまくる二人を宥める事に終止し、残念ながら私自身はリラックスは出来なかった。用意されていた服を纏い、案内された食堂で、これまたはしゃぎまくる二人を宥めながら朝食を済ませる。
世の中のお母さんって偉大だな〜、と成り行きとは言えママ業を勤めはじめた私はしみじみ思う。
これを二十四時間休み無しでやるんでしょう?
「後ほど陛下と伺いますので、ミーナ様はアルゴス様達のお部屋で寛ぎ下さい」とディーバさんから言われ、二人に連れられて部屋に戻る。「自分達も作りたい」と言う二人に教えながら折り紙をしていると、扉がけたたましい音を発てて開いた。あまりの大きな音に驚いて、咄嗟に二人を抱き寄せる。
「よーう。チビども〜。ママ探しに行くか〜?」
飛び込んで来たのは一頭の純白の被毛の狼だった。ただし、牛と間違えるほどの大きさだ。物凄く大きな口にパクリと頭をくわえられたら、その一口で昇天してしまうだろう。
恐すぎる!!本当に狼!?てゆーか喋った!?
「「じーじ!!」」
嬉しそうに言う二人のそれにひっかかる物を感じた。じーじと呼ばれる存在をどこかで聞いた覚えがある。
どこだ?どこで耳にした?・・・・あっ!!
「貴方が二人に儀式を教えた人!?」
「さっすがママ!!光ってるぅ〜」
「そうだよ。ママ。じーじが教えてくれたの〜」
「ママって・・・・このお姉ちゃん・・・・」
きゃっきゃとはしゃぐ二人には目もくれず、ずぃっと鼻を近付けて私の臭いをフンフンと嗅いだ狼が訝しげに呟いた瞬間、地を這うような重低音の王様の声が響いた。
「貴方は何をしておられるのですか!?」
私達の着くテーブルへとツカツカと歩み寄る王様に、ディーバさんとソルゴスさんが続く。
「ん〜?捜し物〜?」
ニヤニヤしながら言う狼ははっきり言って怖い。しかも至近距離からかけられる生暖かい鼻息にふとした拍子にパックリ頂かれそうで大変心臓に悪い。
「何を?とお伺いしても?」
「こいつらのママに決まってんじゃ〜ん」
近い!!近いっ!!怖い!!
ゲラゲラと大口で笑う狼に私は卒倒寸前だ。頼むから離れてくれと心の中で懇願する。
「ママ?どした〜?」
「マ〜マ?」
ピタピタと私の頬を叩くアルゴス君と不思議そうに覗きこんでくるマルケス君に返事を返す余裕も無い。二人が慕うじーじが問答無用で私をかじる事は無いとは思うのだが、一度芽生えた恐怖心は中々消えてはくれない。
「失礼。初対面の女性に対して、馴れ馴れしいのではありませんか?」
硬直している私の心情を察してくれたのか、ディーバさんが間に割って入ってくれる。
「お?なんだなんだ?お前、このお姉ちゃんに惚れてんのか?」
「いい加減にして下さいませんか。貴方が与えた知識で、お二人は儀式を行なってしまったんですよ!?」
「ちび達、もしかしてやっちゃった?」
「あちゃー」と言いながら天を仰ぐ狼に、ディーバさんの特大の雷が落とされる。
「やっちゃった、ではありません!!始祖様っ!!お二人がいらっしゃったら、知識を請われる前にお帰し下さいと何度私に懇願させれば気がすむのですかっ!!」
「始祖様!?始祖様って、御先祖様で始まりのっ!?」
あまりにも驚いて、口を挟んでしまった私に対し、王様が眉間に皺を寄せたまま重々しく頷いた。
「残念ながら、この方が我々の始祖様だ」
「はーい。俺が始祖様でーす。よろしくな〜」
なんとも軽い始祖様に、再びディーバさんの雷が落とされた。