交易の提案 1
「「いただきますっ!!」」
「熱いからフーフーして少し冷ましてから食べてね」
「「はい!!」」
食事のご挨拶をする子供達に忠告すると、視線はコロッケに向いたままだけれども元気に返してくれる。一口大にナイフで切り分けてフーフーしてから口へと運ぶ。
「「ん〜!!」」
子供達の美味しいお顔が出た事に、ホッとする。皆さんも子供達の姿に、期待いっぱいといった様子でコロッケを口に運ぶ。
「お話しするのは、お口の中身が無くなってから。もぐもぐごっくんしてからだよ?」
子供達はコロッケの熱い蒸気を逃そうとハホハホと口を開けながら、それでも私の言葉に従って頷いた。
「「は〜い」」
「あっついけど、こおっけ美味い!!」
「うん!!美味しいね〜。ママ、これなあに?お肉の味するけど、お魚?」
マルケス君の質問は、野菜は除外なのか二択になっている。
「お肉はちょっぴり入ってるけど、ほとんどはお芋だよ。玉葱も入ってるよ」
「「おいも〜!?」」
子供達は驚きの声を上げて目を真ん丸にして、コロッケと私に視線を何度もやる。
「芋なのにこんなに美味しいのか!?」
「ホコホコとろんがお芋なんだ〜」
「スゲーよな!!わざと残した塊がほくほくして良いアクセントになってるし」
子供達の言葉にルッツォさんが感心したように続いた。
「ママが俺達に、特別にっ!!作ってくれただけあるよな〜」
寝起き直後だったにも関わらず、ルッツォさんの言葉を覚えていたのだろうアルゴス君が、「特別」を強調して、ニマニマと笑いながらませた口調で言う。
「そうだね〜。お野菜美味しいと思ったの、初めてかも〜」
頬を押さえてニコニコ笑いながらマルケス君もアルゴス君に同意している。
「今日の晩飯に、俺達の作ったコロッケと、ジャムとコンポートが出るからな?食い過ぎんなよ?」
「「やったぁ!!でも、ママのコロッケは?」」
器用にお尻でジャンプした子供達は不思議そうにルッツォさんを見る。
「皆で食ってる」
「「あ〜」」
ルッツォさんに示された子供達は皆さんをぐるりと見渡し、がっくりと頭を下げた。恐らく、独り占めは良くないのは分かっているけど、皆と分けなきゃいけないのも分かっているけど、ママの手料理は別なの!!と思っているのだろう。そんな子供達の頭をグシャグシャと撫でながらルッツォさんが言う。
「そんなガッカリするなって!!俺達のも中々なはずだぜ?」
ルッツォさんの言葉に料理人の皆さんも力強く頷いて見せる。
「「はい!!美味しいの待ってるね〜」」
皆さんをぐるりと見渡した後、アルゴス君とマルケス君は、にっこりと微笑んだ。子供達に料理人さん達も笑いながら返していた。一人、そんな光景にほのぼのしていると、子供達が私を振り仰いできた。
「ママ!!今度は俺達も出来るの作って!!」
「うん!!クッキーみたいに僕たちも作ってみたい!!」
ひしっと両側から腕に縋り付かれ、うるっとした瞳で可愛過ぎるおねだりをされたら、断るという選択肢は用意されない。
「コロッケは油を使うから、もうちょっと大きくなってからになるけど、ケーキなら大丈夫かな」
「「お月様!?」」
気色満面で問い掛けてくるアルゴス君とマルケス君に首を左右に振る。
「別のケーキ。オーシャンの皆が帰って、果物屋さんのおじさんにキャンディーとジャムを届けたら、皆で作ろう」
「「うわぁ〜!!ママ!!大好き〜っ!!」」
きゅうきゅうと抱きしめてくる子供達はちょっぴり苦しかったけれど、それ以上に温かい気持ちが体を満たした。