おもてなしの準備 8
寝ている間に誰かに寝室へと移動されていると、目覚めた時に混乱してしまうかもしれない、との私の言葉に皆さんが頷いてくれたおかげで、子供達は厨房の片隅でお昼寝している。寝ている姿も可愛いが、やっぱり起きてくるくると表情を変えて元気に遊んでいる方が良い。
「ミーナ!!小麦粉、卵、パン粉の順で良いんだよな?」
「はい!!パン粉を付け終わったら揚げるだけです」
「了解!!じゃ、味見はミーナの貰って、俺達の作成分は晩餐に回して良いか?」
「はい。ならば、今はパン粉の中にコロッケを隠すような状態のままで冷蔵庫に入れて下さい。揚げる時は軽くパン粉を落としてからでお願いします」
「了〜解!!」
「はい!!」
「お前は掃除もしろっ!!」
「ぅえ〜い」
パン粉まみれの手を左右に振ったルッツォさんに、ジルさんの雷が落ちた。叱るジルさんの手も卵とパン粉でコーティングされているのだろうおかげで、げんこつが降る事は無かったがルッツォさんは手を洗い、掃除用具を取って戻ってくる。「油を使う前にさっさとしろ」と叱られ、周りに茶化されながらも指示通りにしているルッツォさんの姿はギャップで可愛らしかった。
「揚げたいんですが、アルゴス君とマルケス君を起こしても良いでしょうか?」
「あ〜。寝てる間にミーナの料理食ったっつったら、ちび達、俺に本気で噛み付きそう」
「噛み付くってのは比喩じゃなくて本当にガブリと来るんだぞ?」と嫌そうに言うルッツォさんに、エリゴスさんが頷いた。
「確かにな。出来る直前に起こせばどうだ?」
今起こして思わぬ事故で怪我をしてしまうよりは格段に良いと、エリゴスさんの言葉に従うことにした。
「そうですね。では、子供達の他に、今、丸々一つ食べてみたい方はいらっしゃいますか?」
勢い良く、誰よりも先に手を挙げたエリゴスさんは視線を浴び、顔を真っ赤に染めていたが、下ろす事はしなかった。
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「ミーナ!!ミーナ!!ちょっ!!早く来てみ!!」
コロッケを揚げ終わり、油切りの作業をジルさんにお願いし、小声で早く早くと呼びかけるルッツォさんに近付いて笑ってしまう。なんと子供達は眠ったままで小さなお鼻を動かし、すんすんと匂いを嗅いでいたのだ。みるみる間に子供達はほにゃりと微笑む。
「これでまだ眠ってんだぜ?」
「美味しいセンサーが働いたんでしょうか?」
むにゃむにゃと口を動かし始めた子供達に笑ってしまう。
「美味しいセンサー?可愛いな、それ。ちび達のセンサーは中々に優秀みたいだな。起こしてやれば?」
「はい。 アルゴス君、マルケス君、おはよう〜」
ルッツォさんに促され、子供達の体を脅かさないように小さく揺する。
「ん……、あ?」
「んぅ〜」
小さくうめき声を上げたアルゴス君とマルケス君が目を開けた。
「おはよう、アルゴス君、マルケス君」
「「ママ!!」」
寝起きは良いようで、子供達はすぐに私の胸に飛び付いてグリグリとマーキングしてから、顔を上げてにっこりと微笑んでくれる。
「「おはようございます!!」」
「おはようございます。起こしてごめんね」
「「ん〜ん!!ママは意地悪しないもん!!なんかあった?」」
きっぱりと言い切った子供達に胸が熱くなる。
「ちび達のママが甘くない料理を特別に作ってくれたんだ。食うだろ?」
ニッと笑うルッツォさんに目を真ん丸にして見せた後、子供達が期待に満ちた瞳で私を振り仰いだ。
「アツアツの内に召し上がれ」
「「ママ!!大好き〜!!」」
ぎゅうっと抱きしめてくれるアルゴス君とマルケス君が堪らなく可愛かった。