おもてなしの準備 7
「「ママ〜。こっち来てぇ〜」」
皆さんの鍋を見て見回りながら、アドバイスをしていると、アルゴス君とマルケス君に甘えた声で呼ばれた。
「「ママ!!これで良い〜?」」
不安半分、期待半分といった表情で示されたバットはお願いしていた全てに綺麗に穴が開けられていた。
「凄い!!ありがとう!!上手に出来たね〜。アルゴス君もマルケス君も大変だったでしょ?」
子供達にがばりと抱きついて胸に寄せる。
「「ぇへへ」」
「大丈夫!!エリゴスも居たし!!」
「やっぱり、大人はすごいね〜。なんでも出来ちゃうもん!!」
子供達に褒められて満更でもなさそうなエリゴスさんが可愛らしい。
「ミーナ!!へらで一本線を引くと別れて、ゆっくり戻るぞ?」
「火からおろして粗熱をとってから、清潔な瓶に入れて完成です。最後はキャンディーです」
「「やった〜!!キャンディー!!」」
調理台からささっと離れて子供達が手を取り合って喜んでいる。キャンディーは火傷の危険があるからと言った事を忘れていないようだ。
「「触っちゃダメなんだよね?」」
子供達とエリゴスさんの顔にデカデカと「物凄く残念です。早く食べたいです」と書かれていて、吹き出しそうになるのをどうにか堪える。
「火傷しちゃうからね。お口の中を火傷しちゃうと、痛くてしみてしばらく美味しい物が食べれなくなっちゃうよ?」
「「我慢出来るよ!?」」
「味見したいってなんで分かったの!?」とばかりに慌てて自分達の口を、両手で押さえる子供達が愛おしい。微笑みながらお願いする。
「アルゴス君、マルケス君、出来上がったバットを皆に渡して来てもらえるかな?」
「「はい!! あ!!エリゴスもお手伝い!!」」
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「ぶは!!ちっちゃい穴に入れるのが一番面倒だったな!!」
「違ぇねぇな!!」
笑いあう調理人さん達にエリゴスさんが、自分の口元に一本指を立てる。彼の視線に促されて下へ向けると、アルゴス君とマルケス君が小さく寝息を発てていた。
可っ愛い〜!!
「キャンディーはまだまだ食えねぇんだろ?ちび達が寝てる間に、甘くない料理をなんか作ってくんね?」
ルッツォさんの言葉に調理人さん達の期待に満ちた視線が私に集中した。
「アルゴス君とマルケス君は、野菜は好んで食べますか?」
「野菜?いや、果物は食べてもサラダはあんまり食わねぇな。残してたりもするしな〜」
「確かに。お二人共、野菜はお食べにならないな」
ルッツォさんもエリゴスさんも頷く。
「固くなったパンか余っているパンはありますか?」
「固いのは無いが、朝の残りのパンはある、はず」
「25個あります!!」
頼りない返答を補うように、子供達曰く、丸焼きの部屋から声が聞こえた。パンがあって、野菜を食べない子供達への料理は決まった。
「では、ジャガ芋を蒸して潰した中に、にんじん、玉葱、みじん切りにした肉を入れて混ぜ、形作り、パンを削った物を塗して揚げる、コロッケという食べ物を作ります」
「パンを削る!?そんで揚げるって」
よほど驚いたのか呆然とするルッツォさんを尻目に若い調理人さんがパンやその他の食材を用意してくれる。
「はい。では始めます」