おもてなしの準備 5
「果実と砂糖のみで三種類の食べ物を作りたいとおもいます。それぞれ、煮詰める時間が違いますが、コンポート、ジャム、フルーツキャンディーとなります」
私の前には、城に戻ると同時にディーバさんから魔法で埃を落として貰いつつ厨房に直行し、皮を剥いて一口大に切ってから砂糖と合わせたボウルと、さくらんぼやイチゴなどの小さいものはそのまま、桃や林檎などは半分に切って種を抜いてから砂糖と合わせたボウルが良い感じに水分が出た状態で各果実ごとに置かれている。
「ここに残るのは自分だ!!」とディーバさんとエリゴスさんが揉めていたが、下処理を終えた私と子供達用に誂えてくれていたコックコートを部屋で着替え、再び、厨房に戻ると、そこに居たのはエリゴスさんだった。
味見狙い?それとも、純粋な興味?
「砂糖と果実だけで三種って、マジか!?」
「はい」
目を真ん丸にしたルッツォさんに頷くと、アルゴス君とマルケス君に左右からコートをつんつんと引っ張られる。
「「何すれば良い?」」
私の発言で期待にキラキラと輝くお目目を曇らせる事になるが、黙っていて子供達が大怪我を負う方が嫌だ。
「ごめんね。今日作るキャンディーは物凄く熱くならないと出来上がらない物なの。だから二人は見てる係と味見の係」
私の言葉に目を丸くした後、子供達はお互いの顔を見合わせると、こちらの予想に反してニンマリと笑った。
「「楽チンしてもズルじゃない?」」
そっち!?
面食らいながらも子供達に答える。
「ズルじゃないよ?でも、キャンディー作りは大人でも危ないから、アルゴス君とマルケス君はふざけたり暴れたりしないで出来るようになるまでは禁止」
「暴れたり、ふざけたりするとどうなんだ?」
「キャンディー食べれなくなるだけ?」
小首を傾げて聞いてくる子供達へ腰を下ろして視線を合わせる。
「キャンディーは物凄く熱いくせに冷やすと固まるから、普通の火傷と違って、手当てするまでに時間がかかって、いつまでも消えない傷になるの」
「「痛……い?」」
かすれた声を出して、ぎゅっと痛いくらいに子供達が手を握りしめてくる。怖がらせたいわけでは無く、ただ、子供達にしなくて良い勉強をさせたくないだけだ。実は私は幼い頃に、甘い匂いに誘われて砂糖を入れる前の小豆の鍋に手を突っ込んで大火傷を負った事がある。中学生になっても残っている痕を撫でられながら、母に、砂糖が入っていたらもっと火傷の深度があったかもしれないと聞かされた時は震え上がった。幸い、現在は火傷の痕は残っていないが、怖くて痛くて熱くて、ただただ、混乱した記憶のみがある。あんな経験は子供達にはさせたくない。だから、鬼と呼ばれようとも出来上がるまでは手を出さないように言い含める。
「凄く、ね。熱くて痛くて早く取りたいのに取れないで、ず〜っとへばり付いちゃうの。だから、お願い。アルゴス君とマルケス君はキャンディー作りは見学と味見だけで良いかな?」
結果的には脅してしまったようだ。怯えたようにこくこくと首を縦に振る子供達を抱きしめると、ルッツォさんが声を上げた。
「おい!!俺達もふざけたり騒ぎ立てるのは禁止だぞ!!いくらちび達が大人しくしてても俺達が馬鹿やったら台なしだからな!!」
「おう!!」
ルッツォさんの喝とそれに応える調理人さん達のやりとりに、はっとした表情を見せた子供達が私の腕の中から抜け出した。
「俺達も!!ママの言う事、守るぞ!!」
「「お〜!!」」
「ありがとう。怖がらせてごめんね」
「「大丈夫〜!!良い子で待ってるから、美味しいの作ってね!!」」
怖がらせた私に向けられた子供達の笑顔が眩しかった。