おもてなしの準備 4
「お姉ちゃんさえ良ければ、その食べ物を作ったら食べさせて貰えるかい?」
突然のおじさんの申し入れに戸惑っていると、見かねたのか、ディーバさんが助け舟を出してくれた。
「次の北の市日が五日後と九日後になりますがキャンディーは腐りませんか?」
「大丈夫です。お客様がお帰りになった後の市日はいつになりますか?」
「九日後ですね。その日に予定を調整しましょう」
どこか必死さを感じさせるおじさんの申し入れを受けるつもりで言った私にディーバさんもまた、同意してくれた。見ればエリゴスさんも頷いてくれている。
「お姉ちゃんの作るもんはそんなに日保ちすんのかい!?」
ディーバさんとの会話に素っ頓狂な声をあげたおじさんに頷くと、今度はこちらが目を真ん丸にする事となった。なんとおじさんはあれもこれもと手当たり次第に傷みかけた果物を袋に詰め始めたのだ。
「売りもんにならないもんばっかだったんだ。お姉ちゃんが良ければ持ってって作ってくんな!!」
「まさか、無料ですか!?悪いです!!少しでも受け取って下さい!!」
「いや、本当に処分するしか無いもんばっかですまねぇ。ん〜、じゃ、百円!!その加工品を是非とも味見させてくれ!!その技術があればフォレストで市に参加している奴は勿論、農家も栄えるはずだ!!」
「味見〜!!俺達と一緒におっちゃんも食べよ〜!!」
「独り占めはダメだもんね〜」
子供達は味見という単語に反応したらしい。嬉しそうなアルゴス君とマルケス君に、おじさんも相好を崩す。ディーバさんやエリゴスさんが国の中枢だとは気付いていないだろうが、おじさんの言葉には真がある。それはつまり、利益を上げるなら自分の事だけでなくライバルとなりうるだろう総ての人々の事をも考える。それは手持ちのカードを全て見せろと言うわけでなく、先ずは提案する事で、それぞれの考えでさらなる高みを目指していける。
良い人だなぁ。
「ありがとな。坊主達!!お姉ちゃんにゃ、迷惑かけるが九日後の市日にここに来てくんな!!」
「「はい!!」」
興奮気味なおじさんに、アルゴス君とマルケス君はニコニコ元気な挨拶をして、「バイバ〜イ!!またね〜!!」と手を振った。
「良い匂〜い!!」
「甘〜い匂いだね〜。食べたくなっちゃうね〜」
ディーバさんと、手持ちの袋だけでは足りないとおじさんが店の木箱に詰めて寄越した為、エリゴスさんが抱える果物に鼻をクンクンと動かした子供達が微笑む。あまりにも大量に果物を貰った為、荷物を置くだけでなく、お土産試作品を作ろうと言う流れとなり、城へと戻る最中だ。
「加工品について、おじさんが物凄い勢いで食いついてましたけど、果物や野菜は少々の傷みでも廃棄するしか無いんですか?」
「はい。フォレストの者であれば値引きなどで購入される場合もあるようですが、本当に微々たる物のようです。又、他国から買い付けに来る商人達は運送中にダメになる分も見越して買い付けます。ですから、少しでも傷みがあれば手にはとりません」
不便だが、他に方法が無いから利用する。だが、その不便さの中にこそ、ビジネスチャンスがある。ディーバさんとエリゴスさんに自分の考えがただの絵空事かどうか聞いてもらおうとした瞬間、アルゴス君とマルケス君に話しかけられた。
「なぁなぁ、ママ、きゃんでーってどんなのなんだ?」
「お月様みたいにふわふわなの?それとも、クッキーみたいにサクサク?」
「ものすごく期待しています」と顔に書かれたアルゴス君とマルケス君に答える。
「キャンディーはね?と〜っても固いの!!だからお口の中で舐めて溶かすんだよ?」
「「固いの!?」」
「かじっちゃダメ?」
「歯が痛くなる?」
目を真ん丸くして驚いている子供達に笑みを誘われる。
「ん。じゃぁ、確かめるために早く帰ろっか」
「「お〜っ!!」」
気合を入れた子供たちに引っ張られながら、私達は城を目指した。