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もふもふの王国  作者: 佐乃 透子
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おもてなしの準備 3

「ママ!!ちゃんと歩いて!!」

「そうだよ〜。お仕事しなきゃ!!」

 ふんふんと鼻息荒く、右手を繋いだアルゴス君と左手を繋いだマルケス君に引っ張られながら歩く私の耳には残念ながら話半分にしか子供達の声が入らない。

 市場って、これ、もう、街でしょ!?規模が違う〜!!

 ディーバさんとエリゴスさんに案内されたのは、商人が店を構える為に集まった結果、いつの間にか町となっていたと言う市場街だった。もう、見渡す限り、人、人、人。あちらこちらから聞こえる、商人の呼び込みと掛け合いで耳がおかしくなりそうだ。ここに来る前に「落としちゃったら泣いちゃうもん」とマルケス君の言葉に頷いた子供達は財布をディーバさんに預けた。「ママもっ!!」と言われて私も預かってもらっているが、大人の私の物も自然に受け取ってくれた理由が分かった。自分達で持って歩いて、落としたらもう二度と出会えないかもしれないと感じさせる程の賑わいだからだ。

「今日は北区の市日(いちび)なので良かったです。城から近い上に他の市区(いちく)よりは規模も小さいですし」

 素通りしそうだったディーバさんの言葉を慌ててせき止める。

「これで小さい!?他にも市場があるんですか!?」

「はい。東西南北で区分けして、毎日どこかの市場が開いております。今日は北区ですので、東西南の市区はお休みです」

 なんと!?

「では、この北区以外の市場街はもっと大きく、別にあるのですか!?」

「はい。城からですと一番遠いのが南区で、竜で一日の距離となります。どこの市場にも通いやすい中央区が宿場街となっております」

 う〜わ〜。もう、深く突っ込んだらおかしくなりそう。

 考える事をやめ、ただ物価の把握とお土産の材料を見るだけに決める。「貰ったお金の分、お仕事するんだ!!」と使命に燃える子供達のサポートに徹するのだ。

「ママ!!これ!!俺の大好きなの!!きゃんでーになる?」

「僕はあれ!!甘くて美味しいんだよ〜!!これ、ならない?」

 アルゴス君が示したのはリンゴ、マルケス君が示したのは白桃だった。他にも季節感を感じさせない多種多様の果物が並べられている店へ、ぐいぐいと私を引っ張りながら子供達が進んだ。

「大丈夫。どちらもキャンディーを作れるよ」

「「本当?」」

 嬉しそうに笑う子供達に頷き、呼び込みをしているおじさんに話し掛ける。

「桃と林檎を四個づつ頂きたいのですが、おいくらでしょうか?」

「桃が四個で三百円、林檎が四個で四百円だよ」

 振り返ると妥当な値段なのだろう、エリゴスさんとディーバさんが頷いてくれる。日本で暮らしていると、リンゴの方が桃より安いイメージがあったのだが、こちらでは違うらしい。

「頂きます」

 私の言葉にディーバさんが財布を私に、おじさんに袋を手渡す。

「まいどあり〜!!」

 威勢の良い声をあげたおじさんが、傷んだ果物を避けて袋に商品を入れようとしているのを見てストップをかけた。

「あ!!桃はその少し傷んだ物が良いです!!」

「えぇ!?柔っこいからどっか茶色くなってるんだぜ!?本当に大丈夫か?」

 心配そうに聞き返してくれるおじさんに、笑顔で応える。傷みと言っても、運搬中に出来たと思われる小さな物が多いし、腐ったものは見受けられない。ならば熟しきって甘い芳香を漂わせている、傷み品の方が良い。

 飴にするには先ず、果実に砂糖を塗し付けて自然にシロップとなるのを待つ。この時、熟している果実を使うと時間も短縮できるのだ。果実をペースト状にして砂糖と煮詰める方法もあるが、それだと濁りが出てしまう為、私は前者をとっている。

「はい。加工するので、熟してる方が良いんです」

「加工!?このままでなく!?」

 目を見開いて勢い込むおじさんに、そういえば、この世界では果物は生で食べるのだったと思い出す。その食生活の常識を覆す発言をしたから、ここまで驚いているんだろう。

「はい。甘い食べ物にします」

 おじさんは「ふむ」と声を漏らし、顎に手を当て、何か考えこんでいる。アルゴス君とマルケス君も真似をして、ふむふむと唸っている。

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