国の名前と取り巻く環境 3
「始祖様?ミーナ様恋しさだけにいらっしゃったのですか?」
能面のような無表情でディーバさんが問う。おそらくあれは、他人に内情を読ませない為だろう。
「そんなわけな〜いじゃ〜ん」
隣に座るアルゴス君の頭をぺしぺしと軽く叩きながら答える始祖様に、ディーバさんは漫画の描写のように顔に青筋をたてた。それはそうだろう。真面目に聞いているのに茶化して返されれば面白いはずがない。
「始祖様!!」
エリゴスさんが若干ヒステリックに叫ぶ。さすが直情の人だなぁと斜め上の事を思っていると、始祖様に呼ばれた。
「ミーナちゃん」
「はい」
「ミーナちゃんに帰る意志は無いんだな?」
「はい」
打って変わった真剣な始祖様の声音に、私も静かに答える。
「アルゴスやマルケスはともかくとして、お前ら王族もミーナちゃんが永住する事を認めたのか?」
「「「「はい」」」」
王様もディーバさんもソルゴスさんも、なんとエリゴスさんも静かに、だが、きっぱりと頷いた。
「なら、完全にフォレストとミーナちゃんは結ばれたな」
小さく頷いた始祖様の顔には優しい笑みが浮かんでいた。王様達もほっとしたような柔らかい雰囲気になっている。
私と結ばれたフォレストさんってだれ?と思ってしまったそれが口から零れた。
「フォレストさんとはどなたでしょうか?」
私の言葉に皆がキョトンとした顔を見せた。思わず小首を傾げると、けたたましい程の始祖様の笑い声と申し訳なさそうな王様の声が重なった。
「どなたって!! ぶひゃひゃひゃ マジ!? ミーナちゃん、マジか〜!?」
「すまん。ミーナ、すっかり説明したと思いこんでいた」
始祖様の爆笑具合から、フォレストは文字通りの意味なのだろうかと考えていた私の膝にアルゴス君が飛び乗ってきた。
「「フォレストは、ここだよ!!」」
「え?」
「この国の名前です。この世界は大きく三国で統治していて、それぞれ、母と戴く物の名前を使っております。フォレスト、ヴォルケーノ、オーシャンとなっております」
戸惑いの声を上げた私にディーバさんが補足説明してくれた。
「王族が生まれてくる場所を国名にしているのでしょうか?」
「はい。その通りです」
その通り!?オーシャンは海で、ヴォルケーノって火山でしょ!?溺れたり、丸焦げなんてないの!?いや、国として成り立ってんだから大丈夫なのか?
一人でパニックに陥っていると、アルゴス君が頬に手を伸ばして優しく撫でてくれる。
「ありがとう」
「ぇへへ!!どういたしまして!!ママのお膝抱っこ、ありがとうだから!!」
アルゴス君は嬉しそうに笑っているが、争奪戦を繰り広げてきたマルケス君は平気なのだろうかと聞いてみる。
「マルケス君はお膝抱っこは良いの?」
「はいっ!!前は僕がお膝抱っこしてもらったから良いの〜。順番こするから、ママはムキムキにならないでね?」
ちょっぴり不安そうに答えてくれるマルケス君に頷いていると、事情を聞いたらしい始祖様が再び爆笑し始めた。そんな始祖様をサラリと流したディーバさんが私の疑問を先回って答えてくれる。
「ヴォルケーノでは王族はマグマの中に入っても平気ですし、同様にオーシャンでも王族は溺れる事はありません」
「説明、ありがとうございます」
礼を言った私にディーバさんは微笑んでくれる。