武術訓練のお時間 1
一夜明けて朝食もすませた当事者全員の王様、ディーバさん、ソルゴスさん、エリゴスさん、私とアルゴス君とマルケス君が執務室へ集まっている。「お酒のお勉強がすんだなら、一緒でも良い?」と聞いてきた子供達に王様が頷いた為、彼等は定位置と化している私の両隣に座っている。
「昨夜は、皆様にご迷惑かけました。本当に申し訳ありません」
開口一番に謝罪して頭を下げる。わけのわからぬ子供達はきょとんとしているが、邪魔をしてはいけないと思ったのか、さわぐと追い出されると思ったのか、口は開かずに大人しく座っている。
「体調はどうだ?」
「「はい。大丈夫です」」
王様の気遣いに、私とエリゴスさんは揃って頷いた。
「大事をとって朝一番で医師にも診てもらいましたが、異常無しと。処置が早かったとミーナの事を褒めておりました。 ミーナ、礼を言う」
照れる〜。って、今、エリゴスさん、私の名前を呼んだ!?
あまりにもさらりと告げられた為、驚きのあまり、凝視してしまう。
「私とて、礼は言う!!」
「エリゴス、真っ赤だ〜!!」
「りんごみたいだね〜」
思っていなかった方向で言われて、とっさに返せない私をよそにアルゴス君とマルケス君が嬉しそうに言った。さすがに子供達には感情のままにきつく言えないようで、代わりとばかりに私が睨まれた。
「早速だが、ミーナ、不正をせずにどうやってエリゴスに勝ったのだ?」
問い掛けてくる王様にエリゴスさんが続く。
「一度は疑ったが、ミーナは不正を働いてはいなかった。だからこそ知りたい」
「はい。私は顔色が赤くなるだけの酒豪なのです」
私の告白に子供達以外の皆は零れ落ちそうな程に目を見開いた。アルゴス君とマルケス君に「酒豪ってなぁに?」と問われたので、「お酒をいっぱい飲んでも酔わない人の事だ」と教えてみた。最初から分かりやすいようにかみ砕いて会話しないのは、まだまだ幼いアルゴス君とマルケス君がアルコールに興味を持たないように意図している。
「だから、青以外の顔色では止めるなと言ったのか」
王様の呟きに頷いてから口を開く。
「はい。何も言っていないままでしたから、皆様が私を気遣って下さった上でのルールと分かったのですが、あのままですと確実に私が負けますので口を挟ませて頂きました」
もっともだと思ったのか王様は小さく頷いてくれた。
「あの・・・・、ミーナ様、アルコールに弱いと流布するようにおっしゃった理由はお伺いしても?」
「はい。私の交渉のカードとして使う為です。酒を飲んで顔を朱色に染めれば、普通は酒に弱いと思うそれを逆手に取りました」
恐る恐ると言った様子で問い掛けるディーバさんに答えると、ぽつりとエリゴスさんが零した。
「私も酒豪だと自負していたのだが・・・・」
確かにエリゴスさんは強かった。今まで飲み比べしてきた人達の中でも上位に当たるだろう。
「私が規格外なだけです」
「確かにな」
苦笑を浮かべるエリゴスさんに、大人達は全員、強く頷いた。「よくも騙してくれたなっ!!」と罵られるよりはマシなのだが、不条理というか腑に落ちないというか、自分で招いたこととはいえなんとも言えないモヤッと感がある。
「「ママ!!がんばれ〜!!」」
自分達も見て〜とのアピールなのか、声援を送られた私は子供達をぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう。がんばるね」
「「うん!!」」
あ〜。癒された〜。