夜中の攻防 5
ディーバさんから「生理現象であろうとも、勝負の途中で抜ける時点で敗者とみなす」と言われ、私とエリゴスさんは準備として自由時間を貰った。「必要がない。不正しようと思うなら仕込めるじゃないか」とかブツブツ言っていたエリゴスさんは清い人なんだなとしみじみ思った。
何故なら、試験や試合などあらゆる勝負に於いて、不正する人間にとっては中座する事が大切で重要なのだ。試験問題や相対する選手の癖や情報を手に入れなければ作戦はたてにくい。だからこそ、不正を企む者は抜け出し、トイレなど人目のつかない場所で仕込むのだ。
最近、入試で、試験中の抜け出しは時間制限ありで試験官とマンツーマン体制でなければ許されないのも、校内に携帯電話の持ち込みを禁止にしているのも、わざわざ話さなくてもメール機能やネットで答えを教えて貰えるという事実があるからだ。ネット環境などこちらに無い事は重々承知しているが、抜け出しの重要性を知らないエリゴスさんは、人の汚い面などあまり見てこなかったからだろう事が少し羨ましくもなる。
「お二人とも、準備はよろしいですか?」
「「はい」」
つらつらと思い返していた私は、ディーバさんの掛け声に応えた。
トイレにも行ったし、アルゴス君とマルケス君にもおやすみなさいの挨拶を交わしてきた。「頑張ってお勉強してきてね」と言われたからには頑張らなければ嘘になる。
挑戦者たる私達の背後には大人の男性が立ったまま余裕で入れるだろう巨大な酒樽が二つ、鎮座召しましている。その巨大さから念願の「飲酒量の限界を知る事」が出来る絶好のチャンスだとほくそ笑む。
今までは、お酒の在庫が無くなったり、顔色でストップかけられたりしたけど、ついに!!やっと!!限界が知れちゃうのね〜!!
「不正防止の為に、お二人には一つの樽から小瓶に移し替えた物を召し上がって頂きます。最終的に飲み干した小瓶の数で勝敗が決まります」
「「はい」」
「勿論、体調が優れない場合はリタイアして下さってかまいません。これは我慢比べなどでは無い事は肝に命じて下さい。又、静観者の我々が、生命活動が脅かされると判断した場合と著しい変化が見られた場合はその方の勝負続行は認めません」
え!?ドクターストップの基準が、目茶苦茶私に不利ですよっ!!
ドクターストップの条件は、「アルコールに弱い」と申告した私の為に設けられたものだろうが、思わずディーバさんに挙手してしまう。
「どうなさいました?」
「はい。一つだけお願いがございます。私の顔色が赤ではなく青になった場合のみ止めて頂きたいのです。顔が赤い内は絶対に止めないで下さい」
「いや、だが、ミーナ・・・・」
私の発言にディーバさんと王様は顔を見合わせた後、困惑した様子で言ってくるが、そんな制約を掛けられてしまえば私は圧倒的に不利だ。というか、十中八九負ける。
困る!!絶対、それはダメだ!!
「お願いします!!」
譲れない条件だと少々凄んだせいか、渋々と王様は頷いてくれた。
「わかった。だが、くれぐれも無茶はするなよ?」
「ありがとうございます」
良かった。敗北フラグはへし折れた〜。喧嘩吹っかけて負けるとか、ありえないよね。