運命の出会い 5
二人が行なった「召喚の儀式」は恐ろしいほどに成功率が低い為に禁断の儀式とされているという。遥か昔に存在していた、どうしても伴侶が欲しかった魔術士が編み出した物らしい。
簡単に説明すると、自分が異世界へと渡り、気に入った者と契約を結び、帰ってくるというもの。異世界を渡ることは魔力をもち、魔術も理解している者ならば比較的容易に行えるそうだが、戻る為には必ず契約者と一緒でなければならないと言う。つまり、アルゴス君とマルケス君は、私と契約出来ていなければ、異世界に二人ぼっちで生涯を終えた可能性もあったのだ。毛玉ちゃん達が永遠にさ迷う事になっていたかも知れないという怒りと、そんな危険な儀式をしなければいけないほどに切羽詰まっていたのかというしょっぱい思いに、今は亡き魔術士を吊し上げたくなった。
まったくっ!!伴侶が欲しいなら、無い物ねだりする前に、まず自分を磨きなさいよ!!私があの夜に接待がなければ毛玉ちゃん達はどうなってたと思うのよ!?
「お前達。誰から召喚の儀式を聞いた?」
「ディーバに聞いて、じーじに教えてもらった」
私の怒りなど知るよしも無い王様は眉間に皺を寄せながら二人に問う。怒られ慣れているのか図太いのかケロッとしたままアルゴス君が答える。マルケス君はうなだれている。自分の名前があげられたディーバさんは倒れんばかりだ。
「又、あの方かっ!!ディーバに聞いたとは、魔術学の勉強中にだろう?どうしてわざわざあの方に聞いたのだ?ディーバではダメだったのか?」
「うん。ダメ」
「あのね、とっても危ないから禁止されてるって言われたの。でも・・・・」
「俺達、ママがどうしても欲しかったんだ」
言って俯いた二人を見て、こんなにもママを欲する幼子を置いて王妃様はどこに行ってしまったのかと王様に質問する事にした。
「失礼を承知で申し上げます」
「良い。ミーナ。畏まらずに話せ。仰々しい喋りは好かん」
お互いに腹の探り合いの最中に、奨められたからといって、ため口で喋るのは愚か者のする事だ。少しでも多くの判断材料を手に入れるまでは言葉遣いにも気をつけなくてはならない。
「ありがとうございます。幼子をおいて、王妃様はどちらに?」
言った瞬間、王様もディーバさんもソルゴスさんも、お揃いでキョトンとした顔をした。
アルゴス君とマルケス君は王様と王妃様の子供でしょう?
こちらもキョトンとした顔をしていたらしい。ディーバさんが感心したように言う。
「ミーナ様は本当に契約者なのですねぇ」
「ああ、そのようだな」
納得したように頷く王様の視線が私の両隣に動く。
毛玉ちゃ〜んっ!!
アルゴス君とマルケス君は毛玉ちゃんの姿で丸くなって寝ていた。
許されるなら、毛玉ちゃん達を抱きしめて存分に撫で回したい!!
王様がチリンとベルを鳴らす。お仕着せだろうワンピースを纏った侍女さん達が入ってくると慣れた仕種で毛玉ちゃん達を抱いたまま退室していった。
「先ずは謝らせてほしい。ミーナ、私は二人を懐かせた上での騙りではないかと疑っていたのだ」
「「誠に申し訳ありませんでした」」
王様の謝罪に続き、ディーバさんとソルゴスさんが立ち上がり、頭を下げる。
「いえ。当然の疑惑だと思います。介抱して頂きありがとうございます」
捨て措かれても不思議ではない状況だったにも関わらず、こうしていられる事に私は感謝している。素性の知れない私を城に入れ、部屋で看病してくれたのだ。謝罪されるいわれはない。
「何故、私が偽者ではないと判断されたのでしょうか?演じている可能性もありませんか?」
私の言葉にニヤリと笑った王様の口から紡がれた言葉に、私は目を丸くした。