夜中の攻防 1
「「嫌だっ!!」」
アルゴス君とマルケス君は頬っぺたをぷっくりと膨らませて、「怒っているんだからね!!」アピールをしている。理由はもちろん、晩餐後の現在から始まるエリゴスさんと私の飲み比べには子供たちは参加させないと王様に宣言されたからだ。この世の終わりのような表情を見せた後、立ち直ったアルゴス君とマルケス君は文字通り、椅子にかじりついてしまった。
「俺達が居ない時のお約束はしないって、ママ、言った!!だから・・・・っ!!」
「「え?言ったっけ?」」
癇癪を起こして叫ぶアルゴス君に、期せずしてマルケス君と私の疑問が重なった。それまで子供達は一緒に怒っていたのに。と、なんとなく可笑しくてマルケス君と顔を見合わせて笑っていると、再びアルゴス君が叫んだ。
「言った〜っ!!」
「アルゴス、ママは言ってないよ?」
反射的に耳を覆ってしまうレベルの大絶叫だ。そんな物はどこ吹く風と言った様子でマルケス君はきっぱりと言い切った。
「なんでママが言ったって言うの?いつ聞いたの?」
「あのな?ママがディーバのお手伝いする時に貰ったりんご食べちゃっただろ?それ聞いた時」
頭良いな〜。マルケス君は。
言った言わないの水掛け論に発展するかと思っていたが、マルケス君は聞こうとする姿勢を前面に出す事で回避した。大人顔負けの会話テクニックだ。
「うん。でも、ママは、今度何かを貰ったら食べて良いって聞くからねって言ったんだよ?」
「あれ?そうだっけ?」
「そうだよ〜。貰った食べ物の事しかママはお約束してないよ?」
「そっか。ママ、ごめんなさい」
アルゴス君はマルケス君の説明をふんふんと頷きながら聞き終えると、納得したのか私に頭を下げてくれれ。マルケス君もそれに続いた。
「はい。大丈夫だよ?」
「我慢するからお月様毎日作ってくれる?」
だが、その言葉は頂けない。
「ダメ」
「「「えっ!?」」」
きっぱりと拒否した私に、この場に居た全員のだろう驚きの声が上がるのは無理も無い。皆は私がアルゴス君のお願いに頷くと思っていたのだろう。実際、子供達のお願いにはほとんど頷いていた。だが、これは頷いてはいけないお願いだ。
この交換条件に私が頷けば、先ほどのやり取りからも見て取れる通り、素直に知識を受け入れ吸収する事を知っている聡い彼等は「自分達のお願いを聞いて欲しいのに断られた時は別のお願いをすれば良い」と学習して、超じて、物をくれたり、無条件になんでも言う事を聞く、所謂、自分達に都合の良い人を良い人、そうでない人を悪い人を悪い人と判断してしまう危険性がある。実際は自分の立場が悪くなろうとも、叱り、意見を言ってくれる人の方が有り難く大切だ。だから私は言う。
「それはダメだよ」
くしゃりとアルゴス君とマルケス君の顔が歪む。同時にエリゴスさんから「なんて事をしてくれたんだ!!」とばかりに殺気に似た視線を飛ばされるが、ここは折れるところでは無い。
そうやって甘やかすばかりだから、間違った学習をしちゃったんでしょうが!!あんた達も事が済んだらまとめて説教よ!!