月夜の酒宴 6
「ミーナ様、その位でやめられないと倒れてしまいますよ?」
心配そうにディーバさんにも言われ、アルゴス君とマルケス君のうるうるお目々攻撃も受け、渋々と酒盃を置いた瞬間、エリゴスさんが叫んだ。
「ディーバ。私はやはり反対だ!!」
「しかし、ミーナ様の手腕は素晴らしいのです。私は是非にとお願いし、陛下にも了承されたと言いましたでしょう?」
一気に険を纏ったエリゴスさんは言葉でも言外にも全力で私を認めないと訴えていた。ビクリと体を揺らしたアルゴス君とマルケス君の肩を抱いて、「大丈夫だよ。怖くないよ」と微笑むと安心したのかそのまま体を預けてきた。憤慨するのもけっこうだが、子供たちの目の前ではやめていただきたいものだ。
「大体!!私は今の職務を下りる気は無い!!」
「もちろんです。ミーナ様には技術指導を仰ぎたいと思っております」
うん?
あくまで憶測だが、ディーバさんの下でエリゴスさんは外交の仕事をしていて、だが、その気に入らない物を気に入らないと言える、素直で純粋な人なんだろう性格の為に交渉の場ではデメリットへと繋がり、上手く行っていない。だからこそ、ディーバさんが私の手腕を買ったのではないか。そして、エリゴスさんは未知なる私へ恐怖心と反発心を抱いている、と。
あ〜。こっちの邪推なら良いけど、当たってたらどうしよ。
「なぁなぁ、ママ、ハチミツ使ったくっちーってある?」
「あのね?エリゴスに意地悪しちゃったでしょ?だから、エリゴスの大好きをあげたいの」
つんつんと私の服を引っ張るアルゴス君の質問にマルケス君が補足する。
「エリゴスさんはハチミツが好きなの?」
「「うん!!エリゴスとソルゴスは熊だから!!」」
くま!?エリゴスさんとソルゴスさんって熊!?
王族は獣人だとは聞いていたが、思ってもみなかった事実に目をむく。
私の知りうる方々は肉食獣な獣人ばかりですか。ジルさんも熊とかかな?ディーバさんはなんだろ?
一人で悩んでいると、ディーバさんとエリゴスさんのやりとりに頭を抱えていると勘違いしたのか、王様が私に話し掛けてきた。
「ミーナ、エリゴスはディーバの下で外交の職務に着いている。ミーナはエリゴスと組む事になるだろう」
「ありがとうございます」
ん〜。邪推が真実?
私の能力を知った上で認められないと言われるなら納得も出来るが、己の感情に頼る判断からならば御免被りたい。相手が嫌いだという感情論だけで行動する者に振り回された揚げ句に辛酸を舐めさせられた事もあるし、今まで遭った感情論者で優秀だった人間は見た事が無い。
私はエリゴスさんが認めざるを得ない状況を作り、言質をとる事にした。幸いな事に、この場に居る誰しもが私が酒に弱いと疑いもしていない。仕掛けるならば今しかない。
決意した私がルッツォさんに視線で合図すると、子供達に知られたくない何かをしたいんだなと感じてくれたようで小さく頷いてくれる。
「アルゴス、マルケス、クッキーやるから、手伝ってくんない?」
「「え!?クッキー!?」」
キラリと目を輝かせた子供達が私を見つめる。
「「行ってきて良い!?」」
「もちろん。お手伝い、頑張って」
「「は〜い!!」」
アルゴス君とマルケス君はニコニコしながら、ルッツォさんと出ていった。
これで戦闘モードに入った私の姿を見られる心配も、怯えられる心配も無い。
さあ、戦闘開始です。