月夜の酒宴 5
大人には酒盃を、子供達にはお茶を出した後、給仕係の皆さんは退出し、ここには給仕を受けていた私達しかいない。
そう!!私、念願のお酒をいただいておりますよ〜!!果実酒ばっかりだけど気にしな〜い。
クッキーを食べ終え、満面の笑顔を浮かべたアルゴス君とマルケス君は、お茶を飲みながらエリゴスさんに問い掛ける。
「エリゴス、俺達のくっちー食べた?」
「美味しかった?」
「いただきました。大変美味しかったです」
杯を置いて、雰囲気を和らげたエリゴスさんが答えると、アルゴス君とマルケス君は満面の笑みを浮かべた。
「ふふ〜ん。でも、ママのはもっと旨いんだ!!」
「うん!!ママのももう食べた?」
困惑の表情を浮かべるエリゴスさんに助け舟を出す為に、私も杯を置いた。恩は本人にのみ気付かれ、周囲にはそれと気付かれない方が高く売れるものだ。売る相手がプライドが高ければ高い程、後々都合が良い。
「アルゴス君もマルケス君も、私はあげちゃダメって言わなかったかな?」
まぁ、この程度の助け舟で恩を売れるとは考えてないけれど、エリゴスさんならばこちらから何も言わずとも、勝手に「借りを作った」とか思ってくれそうだ。
「あ!!そうだった」
「うん。僕たち、エリゴスにあげようとしたママを怒っちゃったんだった」
アルゴス君とマルケス君はティーカップを置いて、顔を見合わせると小さく頷く。
目を見て確認!!以心伝心なこの仕種!!何回見ても、か〜わ〜い〜い〜。
「「エリゴス、ごめんなさい」」
頭を下げた子供達に驚いたように目を見張った後、エリゴスさんは微笑んだ。
「いえ」
「よろしければどうぞ」
子供達とクッキー配布の最中に晩餐となった上、あまり配れていない私の手持ちのクッキーは沢山ある。それをエリゴスさんへと奨めながら、「他意はございませんよ」と意識して微笑んで見せる。
「いや・・・・」
肯定とも否定ともとれる言葉を漏らした後、エリゴスさんは私の手元をチラチラと見ている。
どこの馬の骨とも知れぬ女の作った物だもんな〜。ためらうのは当然か。
席を立とうとする私に気付いたアルゴス君が、クッキーを持つとマルケス君と一緒にエリゴスさんに渡しに行ってくれた。
「意地悪言って、ごめん。ママのくっちー、美味しいぞ」
「エリゴス、ママのクッキー食べてみて?」
「ありがとうございます」
ほんのりと頬を染めるエリゴスさんに子供たちは、ニコッと笑う。
「「どういたしまして!!」」
「エリゴス、よかったな〜。俺達の作ったクッキー、独り占めしてたくらいだもんな。ミーナのは本気で旨いぞ」
「余計な事を言うな!!」
のんびりと告げたルッツォさんに真っ赤に顔を染めてエリゴスさんが叫ぶ。
あ〜。これがツンデレってやつかな〜。
しかし、これで一度目に渡しそこねたクッキーをエリゴスさんが残念そうに見ていたのも、先ほど贈ろうとした時に私の手元をチラチラと伺っていた理由もなんとなく分かった。得体の知れない私からのクッキーを警戒したからではなく、甘党だったからだろう。
「ママ!!大丈夫!?」
「ママ!!お顔、真っ赤っ赤だよ!?」
「大丈夫よ?お顔が赤くなったのはお酒を飲んだからだし、気分も悪くないもの」
心配そうに覗き込んでくるアルゴス君とマルケス君に答えるが、二人の表情は変わらない。