月夜の酒宴 3
何故、王様が吹き出したのか分からないようで、きょとんとしているアルゴス君とマルケス君の頭を優しく撫でた。どうにか笑いを納めたらしいルッツォさんが立ち上がり、鏡を片手にニヤリと笑う。
「今日は食後に果物かクッキーか選べるぞ」
「俺、くっちー!!」
「僕も!!」
間髪入れずに「はーいはーい!!」と片手を上げてアルゴス君とマルケス君が主張する。子供達に笑顔で答えたルッツォさんは、ぐるりと大人達を見渡した。
「聞き方間違えた。果物欲しいやつ居るか?」
正直、私はクッキーより果物が欲しいと思ったが、誰も手を上げないし、子供達から「ママも一緒だよね」と目で訴えられたので空気を読んで止めた。ルッツォさんは小さく頷くと鏡で厨房へと連絡している。
「「みんな一緒〜」」
アルゴス君とマルケス君が満面の笑みで両手を上げて言う。
「くっちーうまいもんな!!」
「うん!!でも、お月様も美味しいよね〜」
子供達は顔を見合わせて、にんまりと笑ってから私に抱き着き、ぐりぐりと頭をこすりつけてきた。
「ママ。毎日、お月様、作ってくれる?」
「僕たち、毎日、お月様、食べたいな〜」
可愛いおねだりに二人の頭を撫でながらいたずらっぽく言う。
「美味しいからっていっぱい食べると縮んじゃうかもよ?」
「「あっ!!」」
慌てたように口を手で押さえて上目遣いで私を伺ってくる。チラリと正面に視線を向けると、王様は肩を震わせているし、ディーバさんは満面の笑みを浮かべ、ソルゴスさんとエリゴスさんも笑顔まではいかないまでも柔らかい表情をしていた。
「今の無し!!」
ぱっと口から手を離し、アルゴス君が言う。
「お月様、好きだけど、毎日は要らないよ?ホントだよ?」
同じく両手を顔の脇に上げてマルケス君が言う。
「ホントに良いの?」
「「うん!!」」
私の問いに、アルゴス君とマルケス君がプルプルと首を縦に振る。
「良い子のアルゴス君とマルケス君には、一週間に一回、私はお月様を焼いちゃうよ」
「「良いの!?」」
真ん丸お目々をキラキラ輝かせて子供達が問い掛けてくる。
「もちろん」
「「やった〜!!」」
アルゴス君とマルケス君は椅子に立ち上がると「やった〜!!やった〜!!」とはしゃぎだす。足を踏み外しはしないかと冷や冷やする。
「アルゴス、マルケス、お前たちは一週間とはなんのことかわかっているのか?」
「知らない」
「うん。わかんな〜い」
知らないの!?わかんないの!?なら、なんで喜んだの!?
直立して答える子供達に王様が目頭を押さえる。まさかとは思うが、この場の雰囲気とノリで喜んでいたのだろうか。
「アルゴス様、マルケス様、朝起きて、おはようございますを言って、夜寝る前におやすみなさいを言う。これを七回繰り返さないと一週間にはなりません」
「お昼寝は無し?」
マルケス君の問い掛けにディーバさんが頷く。
「お昼寝をしてご挨拶してもカウントされません」
「それっていっぱいってことじゃん!!」
とんでもないとばかりにアルゴス君が叫ぶ。さっと顔を見合わせた二人が口を開いた。
「「今の・・・・」」
「・・・・無しには出来ないな。ミーナの提案に頷いただろう?分からないなら分からないとすぐに言わないとこうなるんだ」
「「あ〜」」
王様に遮られたアルゴス君とマルケス君はがっくりとうなだれた。