波乱含みの晩餐 5
どうにかお膝抱っこ争奪戦も落ち着き、和やかに晩餐となる。アルゴス君とマルケス君とあれが美味しい、これが美味しいと話している内にマナー違反である事は重々理解しているが、私はそれをどうしてもやりたくなった。自分の皿の肉を一口大に切り分け、アルゴス君の口元へ運ぶ。
「アルゴス君、あーん」
「あーん」
素直に口を開けてくれたアルゴス君に食べてもらうと再び肉を切り分ける。マルケス君はワクワクと期待に満ちた表情で私の手元を見つめている。
「マルケス君、あーん」
「あーん」
「「美味しい〜」」
咀嚼し、嬉しそうに笑ってくれるアルゴス君とマルケス君に心の中で悶える。お返しとばかりに二人から一口づつ食べさせてもらった私は嬉しくてしかたない。
「ママ!!今度はパンが良いな〜!!」
「僕も!!ママ、あーんして食べさせて〜」
可愛いおねだりに気を良くして、小さくちぎったパンをアルゴス君とマルケス君の口元に運ぶ。
「「ママも!!あーん」」
「あーん」
もう大満足!!可愛いし、どうしよう!!
ふと静まり返っている事に気付いて視線を上げると、男性陣は全て顔を真っ赤に染めていた。王様は目を真ん丸にしているし、エリゴスさんはふるふる震えている。ディーバさんとソルゴスさんは私と視線が合うと俯いた。私の顔がにやけている自覚はあったが赤面させるような事をしたのか?と首を傾げる。
「皆もママにあーんしてほしいのか?」
アルゴス君がきょとんとした顔で尋ねる。
「でも、ママは僕たちのママだからダメだよ〜」
ちょっと胸を反らして勝ち誇ったようにマルケス君が言う。その言葉に笑顔を浮かべたアルゴス君は激しく首を縦に振っている。
「破廉恥な!!お前はその行為が何を意味するのか知らないのか!?」
破廉恥!?
エリゴスさんはガタリと音を発てて立ち上がると私に指を突き付けた。私は非難されるような行動をとったつもりはないが、こちらの世界ではお互いに食べさせあう行為は大人が赤面するような事なのだろう。それならば、目を見張られたり視線をそらされた事にも納得出来る。お国変われば常識非常識も変わるという事をすっかり忘れていた。突き付けられた指先はプルプルと震えている。
「コラ!!人を指差しちゃダメなんだぞ!!」
「そうだよ!!エリゴス!!ダメだよ!!」
子供たちはエリゴスさんにぷりぷりと怒っている。
「すみませんでした」
はっと目を見張った後、手を下ろしたエリゴスさんは頭を下げる。
「俺たちじゃないだろ!!ママにごめんなさいだろ!?」
「そうだよ!!エリゴス、ママに謝って!!」
ひ〜え〜!!エリゴスさんに駄目出しなんて、私が後でお小言頂戴しそうだよ!!
両隣にアルゴス君とマルケス君が居るせいか、きつい視線は向けられないが、なんというか気配が違う。
「すまなかった」
渋々と告げられたエリゴスさんの謝罪から副音声で「無知なお前のせいで私がお二人から叱られたのだ」と聞こえた気がする。
「いいえ。私が無知なばかりに申し訳ありません。よろしければ、理由を御教授願いたいのですが」
頭を下げると、プイッと横を向いたエリゴスさんが早口に言う。
「ディーバに聞け」
「私ですか!?」
エリゴスさんに丸投げされたディーバさんは、今にも倒れんばかりに驚愕している。隣のソルゴスさんはディーバさんの肩を軽くテンポよく叩いている。
そんなに大層な破廉恥行動だったのかと私は肝を冷やす。ディーバさんはうろうろと視線を漂わせた後、口を開いた。