絡まる思惑 5
オマケだろう私も含めた子供たちを案内してくれたエリゴスさんはクッキーを大切そうに持ったまま、扉の前で別れた。私も言い方は悪いが賄賂代わりにクッキーを渡そうとしたが、「ママはあげちゃダメ」と子供たちに阻まれ断念した。悪いことは出来ないもんなんだなと思いつつ伺ったエリゴスさんの表情が残念そうだったのには驚いた。
甘党なのかな?
「ドンドンはだめなんだよな?なんだっけ?」
「ノックは四回だよ。アルゴス。そうだよね?ママ」
ディーバさんの部屋の前で私が言った事を覚えていてくれたアルゴス君とマルケス君が確認してくる。それに頷くと二人は仲良くノックする。
「「来・た・よ・オマケ!!」」
オマケの部分を早口に、四回叩かれた扉から返答があり、すぐに中へと招き入れられた。中には王様とソルゴスさんとディーバさんが居た。
「アルゴス様っ!!マルケス様っ!!ミーナ様に習ったのですか!?」
執務机の横に居たディーバさんは驚きと歓喜の声をあげた。それはそうだろう。マナーとはなんぞやとばかりに襲撃に等しい状態だったアルゴス君とマルケス君がノックをし、なおかつ部屋主の許しを得てから入ってきたのだ。驚かないわけがない。
「うん!!俺たち、ママみたいになるんだ!!」
「そうだよ〜。ママみたいになっても女の子にならないんだって!!」
マナーの話しをしているはずなのに、何故女の子になるならないの話しになったのだ?と怪訝そうな王様たちにざっと説明する。聞き終えた王様は笑いを堪える為だろう無表情になり、ディーバさんはぽかんとし、ソルゴスさんは直立不動のままだ。
王様!!肩が震えてますよ!!子供たちが傷付いちゃったら承知しませんよ!!抑えて下さい!!
幸いな事に子供たちは王様が笑いを堪えている事に気付いていないようだ。クッキーを渡そうと袋を探っていたアルゴス君がガバッと音がしそうな勢いで頭を上げて叫んだ。
「ママ!!早くディーバに返して!!」
「そうだよ!!あ!!返す前に僕たちに見せてね?」
両隣に居たアルゴス君とマルケス君が「早く早く」と急かしてくる。
忘れてくれてて良かったのに〜。
何事かと首を傾げる王様に申告する。
「ディーバさんから頂いた話しの件です。お返しすれば無かった事になるだろうと思っているようです」
「思ってるんじゃなくて、そうなんだろ!!ほらっ!!ママ、早く返して!!」
「なんで返さないの?ママ、落としちゃったの?」
私の言葉にアルゴス君は憤り、マルケス君は無くしてしまったのかと心配し「探しにいこっか?」と言ってくれる。
ぅ〜わ〜!!どうしよう〜!!どうすれば良い!?
ひたすら心の中で焦る私に王様はいたずらを思い付いた子供のような笑みを浮かべる。
「ミーナが腹が減ったと言うのでな?りんごをやったんだ」
「「食べちゃったの!?」」
食べてないです。
目をまん丸くしたアルゴス君とマルケス君は私の服にぶら下がる。
「も〜!!なんで食べるんだよ〜!?」
「食べちゃったら返せないでしょ〜!?」
だから、私は食べてないんです。
憤り抗議する子供たちに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。鬱々(うつうつ)とした気持ちを押さえて、ニヤニヤと楽しそうに笑っている王様に、悔しくなった私は一撃を喰らわせる事にした。私には冗談で通じるが子供たちには通用しない。彼らはいつでも、直球勝負だ。
極上の営業スマイルを浮かべる。
「ありがとうございます。陛下のおかげで空腹を満たす事が出来ました。ですが陛下、あの時、子供たちには内緒とおっしゃいませんでしたか?」
「は!?」
「「なんで内緒っ!?」」
私の言葉に王様は呆けた表情を見せ、子供たちはキッときつい視線で王様を睨んでから執務机を回りこみ、抗議の声を上げている。残念な事に、アルゴス君もマルケス君も机スレスレの背丈な為、見えるのは髪の毛だけで表情は伺えない。
「いや、内緒とは・・・・ミーナ!!」
「今、俺たちとお話ししてるだろ!!ママじゃなく、俺たちを見て!!」
「アルゴスの言う通りだよ!!なんで、ママに食べさせたのっ!!ママは僕たちのママなんだよ!?」
アルゴス君とマルケス君に詰め寄られる王様を見て、溜飲を下げる。
あ〜。スッキリした。