運命の出会い 3
侍女さん達に案内された風呂場で徹底的に磨き上げられ、ドレスを着せられ、メイクアップされた私は、それこそ、映画でしか見たことの無い城の謁見の間で、家臣や兵士の好奇心と嫌悪感のこもる視線を一人占めしていた。
入室の際にチラリと視界に入ったのは、王様とアルゴス君とマルケス君の姿だった。一番豪奢で一番高い場所に一人座っているから、王様だろうと見当をつけた人物は、漆黒の髪の毛の青年だった。その両脇に座るアルゴス君とマルケス君も又、高い地位についているものと思われる。
そんな二人がなんで、私をママと呼ぶ?
「そなたがこの子達と契約した、と?」
ソルゴスさんに前持って言われていた為、私は彼の前でひざまずいていたのだが、直接、返答して良い物かどうか戸惑う。映画の中や日本史などでは王様や帝に直接返答するのは無礼だとされていたはずだからだ。どうしたものかと頭を捻らせ、無言でひざまずいたままで居ると余計に無礼かと覚悟を決めて、返答する事にした。
「恐れながら私、水無月楓が申し上げます」
「うむ。申してみよ」
時代劇みたいだなと思いながらもそれに併せて仰々しい言葉遣いで続ける。
「私自身、置かれて居る立場も状況も判らないのでございます。失礼を承知で申し上げますが、どうか私に知恵を授けて下さりますよう、お願い申し上げます」 その瞬間、聞こえていた囁きが消えた。
あ、デスフラグ立てちゃったな。終わったな。毛玉ちゃん、バイバイ!!とかなんとか思っていると、アルゴス君とマルケス君の声が耳に飛び込んで来た。
「俺達のママをいじめるな〜っ!!」
「マ、ママをいじめないで〜っ!!」
そして続く何かを力無く叩くポスポスと言う音に、悪い予感を抱いた私は反射的に面をあげた。
「虐めているのではない。ただ、聞いているだけであろう?」
「嘘だ!!いじめてたっ!!」
煩そうにあしらう王様にポスポスと体当たりしていたのは、銀色の毛玉ちゃんだった。金色の毛玉ちゃんは前足を王様の膝にかけて、プルプル震えながら訴えた。
マルケス君の声で!!
「マ、ママは、ぼ、僕たちとぉ契約、したの〜」
毛玉ちゃん!?毛玉ちゃん達がアルゴス君とマルケス君なの!?だから、アルゴス君が毛玉ちゃん達に言った「家族になって」発言を知ってたの!?それが「契約」とやらなら、してるじゃん!!私〜!!
ここで叫びだしてはいけないと、心の中で喚きちらす事で、リアルなそれを必死で我慢する。
「いい加減にしないか、お前達!!お前達が、そうやって騒ぐとミーナから話が聞けぬであろう?」
「じゃぁ、俺達の部屋で聞けば良いんだよ!!」
「賛成〜!!」
嬉しそうに、それが良い!!そうしよう!!とはしゃぐ毛玉ちゃん達に、私は声を上げた。
「いけません!!素性の知れない人に着いていったり、お家にあげちゃいけません!!危ないでしょう!?」
「「ママ?」」
いきなり叱り付けた私に、毛玉ちゃん達はキョトンと目を丸くする。
「ぶ、無礼なっ!!」
「次代様達に対して、なんたる言い草!!」
憤る皆様の声に、ギャラリーが居た事を思い出して青ざめる。
また、デスフラグ立てちゃった。
いきり立つギャラリーの喧騒を、王様は手を軽く上げて静めた。
「見知らぬこの子らを叱るのはなぜだ?ミーナ」
静かな声で問い掛ける王様に答える。
「甘やかすだけでは大人になった時に困るのは、この子達だからです。何も知らされず、覚えず、善悪の判断がつかないままに育ってほしくないからです」
王様の瞳がフと和らいだような気がした。
「アルゴス、マルケス、お前達はミーナを私の部屋へ案内しろ。ソルゴス、ディーバ、お前達も来い。後の者達は下がれ!!」
それが、デスフラグを立てまくった私の初めての謁見体験の終了を意味すると理解したのは、毛玉ちゃん達に「ママー!!」と突撃されたからだった。