絡まる思惑 1
暇乞いをしたものの、「独り占めは良くない!!みんなにクッキーを配りたい」と言うアルゴス君とマルケス君の希望に応え、皆さんの好意に甘えた私たちは厨房の作業台をちょっとお借りしてラッピングしていた。ディーバさんは「ミーナ様により、この世界にクッキーとホットケーキが生まれた偉大なる記録を速やかに保存しなければいけません」と言って厨房を後にしている。ディーバさんがついて来たのは教育係を口実に出来立ての料理を食べたいだけなのだろうと思いこんでいた私は、正当な理由があった事に恥じ入る。
疑って、本当にごめんなさい。
クッキーを丁寧に包みながら、アルゴス君とマルケス君が言う。
「これ食べたら、美味しくて泣いちゃうかもな!!」
「うん!!でも、美味しいから全部ちょうだいって言われたら僕たちが泣いちゃうかも」
「「あ〜」」
自分達で言った言葉に落ち込む二人は、抱きしめてチューしたいくらいにとても可愛らしい。ルッツォさんが既にクッキーを配った事は頭に無いらしく、真剣に「どうしようか?」と相談している。そんな二人に笑いながらルッツォさんが提案してくれる。
「全部ちょうだいって言われたら、厨房の料理人に言えばって言ってやれ!!」
「「うんっ!!」」
嬉しそうに頷いた二人は、包み終わったクッキーを数え始める。会話しながらも作業するルッツォさんの手に狂いが無いのは流石だ。
「でも、すげーよな。ほとんど同じ材料で、全く違う料理が出来上がるんだからな〜。あ、気になってたんだけど、牛乳を用意したのに使わなかったのはなんでだ?」
「はい。水分量の調整の為にお願いしましたが、調整の必要がなかったので使いませんでした」
答えた私にルッツォさんが軽く頷いた。
「パン作りと似たようなもんか。 あがったぞ!!焼いてくれ!!」
「高温だと表面だけが焦げて中が生のままな場合がありますので、石窯の温度に気をつけて下さい」
「はい!!」
ルッツォさんに差し出された鉄板を受け取った若い料理人さんに言うと、彼は顔を赤くしたまま石窯へと向かっていった。彼を見て、ルッツォさん、アルゴス君、マルケス君が額を突き合わせてなにやら相談している。
「ミーナ嬢、お手隙の際で結構ですので、これからも御教授願えますか?」
「よろしくお願いしますっ!!」
言って頭を下げたジルさんに続き、料理人さん達がその場で頭を下げた。壮観な光景だが、頭を上げてくれるようにお願いし、応えて上げられたどの方達の顔にも浮かぶ感情は、私への良い意味での期待だった。
どうしたものかと悩んだ私を救うようにルッツォさんがジルさんを諌める。
「じーさん!!ミーナはこいつらのママなんだぞ?それにディーバの手伝いもするみたいだし」
「「えぇ〜っ!?ディーバ〜!?」」
そうだった。
ディーバさんの下で外交を手伝うと王様の目の前で了承していた事を思い出す。
ルッツォさんの言葉を聞いたアルゴス君とマルケス君が、ぷっと頬を膨らませてから抗議の声をあげた。
「なんで!?ママは皆のママじゃないだろ!?」
「そうだよ!!僕たちのママでしょ!?」
二人は素早く椅子から降りて、私の目の前で抗議行動をとる。アルゴス君は地団駄し、マルケス君は私の服を掴んで振り回す。
可愛い〜!!ここで喜んじゃいけないのはわかってるけど、可愛いよ〜!!
子供達に言い含めたり、言いくるめる事は簡単だが、大人の顔色を伺ってしまう成長の仕方は避けたい。
「「ママッ!!聞いてる!?」」
さて、どうしたことか。