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もふもふの王国  作者: 佐乃 透子
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あまいひととき 7

 料理人の皆さんに味見してもらう為にホットケーキを焼きながら、年かさの料理人さんが料理長に対して、なんでこんなにぞんざいな扱いなのだろうとディーバさんに聞いてみると、彼もまた王族の一員で、今居る成人した王族の皆さんはほぼ彼の料理で育ったのだと言う。

 元料理長の彼の名前はジルさん。いつまでも料理長の座に居ては育つものも育たぬだろうと料理長の座をルッツォさんに譲った後、料理人の指導にあたっているそうだ。ジルさんは「厨房の長老」とひそかに囁かれているそうだが、面と向かって長老と呼ぶと「年寄り扱いするな」とゲンコツが飛んでくる為、あくまで囁くのだそうだ。

「仲の良い親子みたいですね。それに、王族の方が厨房に二人もいらっしゃるのですね」

「はい。獣人は成人するとそれぞれの希望と能力によって、城で働く事になります。特にルッツォは幼い頃から毎日厨房に入り浸っていましたから触れ合う機会も他の者とは比べ物になりません。ジルからすれば、まだまだヤンチャな子供のままなのではないでしょうか?」

 返された言葉に頷いて、焼けたホットケーキを皿に移し、乾燥しないように濡れ布巾を被せる。それを見たアルゴス君とマルケス君が声を上げる。

「ママ!!お月様、もう一個食べたい!!」

「僕も!!」

「俺にクッキー全部くれんなら、おかわりしろー。ありがとな!!アルゴス!!マルケス!!」

 クッキーを盛った皿を片手に、先回って礼を言ったルッツォさんに二人はぷっと頬っぺたを膨らませた。

「「ルーにいの意地悪っ!!」」

「ば〜か。お前らがそんなに旨いと思う料理を独り占めする方が意地悪でひどいんですぅ〜」

 茶化して言っているが、ルッツォさんの言葉には真実が詰まっている。私はそれに便乗する事にした。

「ねぇ、アルゴス君、マルケス君、目の前で誰かが美味しいな〜、凄く美味しいな〜って言いながらお料理をぜーんぶ食べちゃったらどう思う?」

「ケチ〜って思う」

「うん。少しちょうだいって・・・・あ!!」

 小さく声を上げたマルケス君に続き、アルゴス君も気付いてくれたようだ。二人は椅子から降りるとルッツォさんに頭を下げた。

「「ルーにい、ごめんなさい。皆もごめんなさい」」

 ルッツォさんは「わかったんならいーや」と二人の頭を豪快に撫で回す。「止めてよ〜!!」と抗議の声を上げる二人の顔には笑みが広がっている。きっかけを与える事で自分達で考え、謝る事が出来る子供達の成長が嬉しかった。

 晩餐の支度まで余裕があるからと皆でお茶を飲む事になった。開始早々、「ミーナ直伝の料理を食わせてくる」と大皿に盛ったクッキーを抱えて出て行ったルッツォさんはまだ帰ってこない。

「こりゃ食えね〜!!」

「やっぱり、めんどくさがってちゃ旨いもんは出来ねぇって事だな」

 やっぱり試してみたいとルッツォさんが作った、粉を振るわない、バターと砂糖に空気を含ませない、卵もあえて一気に入れる、とタブー尽くしのクッキーは、粉の塊や溶けきれなかった砂糖が見られる上にやたらと固い代物となった。

「すげーな。こんなに違うんだ」

 だが、比較対象になった為に、料理人さんはもとより子供達にも、「手間は惜しんではならない」という教訓になったようだ。

「そういえば、子供たちの部屋から厨房までは距離がありましたが、ディーバさんはどうやって皆様と交渉したのでしょうか?」

「「鏡だよ!!」」

 子供達の言葉にディーバさんが補足説明してくれる。伝達に人を使ったり自分が走らずとも、魔法をかけられた特定の鏡を使う事で意思疎通するのだと言う。魔法の鏡は成人した王族に配られる他、主要な部屋へと固定されていると聞き、テレビ電話機能付きの携帯電話と固定電話のようだと想像していた私にジルさんが折り畳み式の手鏡をみせてくれる。マナーとして席を外していた為に、あの時、ディーバさんが扉から登場したようだ。

「ディーバとルッツォが、聞いた事のない料理を作りたくないか!?と話しているのをみた私がぜひにとお願いしま・・・・」

「すっげーよ!!追加注文受けちまった!!野郎共!!クッキーの量産にかかるぞ!!」 ジルさんの言葉を遮るタイミングで入って来たルッツォさんは、ジルさんの眉間に刻まれた深いしわにも気付かないように興奮していた。忙しくなりそうなので暇乞いをする。

「「ありがとうございました。また、よろしくお願いします!!」」

 もちろん、アルゴス君とマルケス君はきちんと挨拶しましたよ。

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