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もふもふの王国  作者: 佐乃 透子
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あまいひととき 4

「皆さん、粉は振るい、バターは白っぽく混ざっていますか?では次の工程に入ります」

 面白がられたルッツォさんの前には、料理人さん達によって下準備が一切されていない材料が並んでいる。いくらなんでもあんまりだろうと、交換しようとすると、料理人さん達に「自業自得だからほっとけ」と止められたので、完成したら私の物を分けようと思う。

「バターのボウルの中に、少しづつ三回以上に分けて卵の黄身を入れて、そのつど混ぜて下さい。決して一気に入れないで下さい。分離して美味しくなくなります。 アルゴス君とマルケス君は私が卵を入れても良いかな?二人は混ぜ混ぜしてくれる?」

「「うん!!」」

 大きく頷いてくれるアルゴス君とマルケス君に、「順番に入れるからね」と言っていると、ルッツォさんが自分のボウルを見て歎く。

「うっわ〜。俺の、見るからにマズそうなんだけど・・・・」

「大人のくせにガキをからかうからだ!!」

「だってよ〜」

 すかさず料理人さんにツッコまれて、厳つい顔を歪めて肩を落とすルッツォさんは、外見とのギャップも相成って、彼には不本意だろうが可愛らしい。

 そんなルッツォさんをチラチラと盗み見るアルゴス君の眉は、八の字になっている。ルッツォさんのボウルを奪う形になって悪い事をしたと感じているようだ。情緒面での成長が見受けられなかったと王様やディーバさんは言っていたが、こうやって、相手に対して悪いなと思っているだろう姿を見せているのだ。心配するほど成長していないわけではない。挨拶なども含めて、ただ、知らないだけだ。大人が正しい見本となるように態度で示してやれば、それを見て子供は真似しながら成長してくれるだろう。この子達が真っ直ぐに育ってくれるように、子供たちに恥ずかしくない見本となれるように私も真っ直ぐに生きていきたい。

「アルゴス君、一緒に言おっか」

「ママ!!・・・・まぅわぁ〜んっ!!」

 声をかけると、うるっと目を潤ませて抱き着いて来たアルゴス君は、そのまま泣き出してしまった。ツンツンと上着を引っ張られる感覚に振り向くとマルケス君もまた、目に涙をためていた。

「ママ、アルゴスは悪く無いよ。僕だよ。僕も言う」

「んっ!!それじゃ、皆で言おっか」

「「う゛ん」」

「「「ルーにい、ごめんなさい」」」

 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をタオルで拭い取り、アルゴス君とマルケス君の呼び方に合わせて、ルッツォさんに三人で頭を下げた。さきほどまでは賑やかだったのに、しんと静まりかえった厨房の雰囲気に、顔を上げると真剣な表情のルッツォさんが軽く震えていた。

 今までのやりとりでは子供たちに目くじらをたてて怒るようなタイプには見えなかったのだが、食べ物の怨みは恐ろしいという事だろうか?私のスカートをぎゅっと握ったアルゴス君とマルケス君が不安そうにルッツォさんを見つめている。ふるふると小刻みに肩を震わせていたルッツォさんが沈黙を破る。

「もう一回。ミーナだけもう一回」

 私だけと言う事は子供たちは許してくれたのだろう。「監督不行き届き」と言いたいのだろうと思い、子供たちと言った子供たちの思いを代弁し、もう一度、頭を下げる。

「ルーにい、ごめんなさい」

「ミーナ!!許す!!」

 謝った直後、どこか嬉しそうな声音のルッツォさんに抱きしめられた。予想していなかった抱擁にパニックになりかける。

「調子にのるなっ!!」

「変態行為は、おやめなさいっ!!」

 年かさの料理人さんにルッツォさんが、ディーバさんに私が抱えられるようにして引きはがされた。ルッツォさんは床に放られた後、料理人さん達に囲まれて姿が見えない。

「ミーナ嬢!!アルゴス様!!マルケス様!!料理長への気遣いありがとうございます!!料理人一同、感謝しております!!ですが、時間が惜しいので、引き続きのご指導、お願いします!!」

「お願いしますっ!!」

 ルッツォさんを引きはがした料理人さんを筆頭に全員がザッと頭を下げる姿は圧巻だった。

「ミーナ、頼むな〜。アルゴス、マルケス、俺こそごめんな?許してくれるか?」

 料理人さん達の立つ足と足の隙間から、上半身を出したルッツォさんがアルゴス君とマルケス君に問い掛けた。

「「うん!!」」

 晴れやかに頷くアルゴス君とマルケス君は遺恨などないようだ。

「お前は調子に乗りすぎだ」

「っで!!」

 年かさの料理人さんにゲンコツをくらって涙目になっているルッツォさんを見たアルゴス君とマルケス君はビシッと直立する。

「「良い子になるからゴン要らないです!!」」

 途端に沸き起こった笑い声にアルゴス君とマルケス君はキョトンとしていた。

 自分たちも叱られちゃうと思っちゃったんだね。アルゴス君、マルケス君。

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