運命の出会い 2
意識を取り戻すと、私はベッドに寝かされていた。
清潔そうな真っ白なリネンに、倒れた私を誰かが見つけて119番通報し、病院に担ぎ込まれたのだろうと予想する。
ママと呼ぶ毛玉ちゃん達の事は夢だったのだという安堵と、あんなにかわいらしい毛玉ちゃんには二度と会えないに違いないという失望の二つの感情を持ちながらため息をついた。
「あ~。でも、意識失うなんて、初めてだな~」
とりあえず、担ぎ込まれた状況を聞こうとナースコールを探し、動きを止めた。
ナースコールがない。
ナースコールどころか、電化製品が無い。目についたのは電灯ではなく、ランプ。
除湿器も加湿器もヒーターもクーラーもエアコンも……。
混乱した思考を落ちつけようとベッドに転がり、またしても気付いてしまう。
ベッドが木造だ。
それも、日曜大工作りのちゃちいものではなく、アンティークと言われて納得出来るような、飾り彫りのある重厚な安定感のある物。
「まさか……夢じゃ……ない?」
呟いた瞬間、自分のものじゃないように身体がガタガタ震えた。
ぎゅっと自分の身体を腕で抱き締めるようにして抑えながら考える。
考えろ!考えろ。考えろ!!
なにを?
考えようとしても纏まらないそれにますます混乱する。
「なんで、ママに会っちゃダメなんだよ!?」
「はーなーしーて~っ!!ママ~!!ママ~!!」
「マ~マ~ッ!!っと!!先行くぞ!!マルケス!!」
「いけません!!尋問の必要が……あっ!!アルゴス様っ!?」
「ママっ!!」
子供と男性の争う声に、視線をむけた扉が大きな音を発てて開いた。
「ママ、起きた~!!」
目を丸くしている私に、嬉しそうに男の子が飛び付いてくる。
「アルゴス、ずる~いっ!!僕も!!」
男性を振り切ったらしく、もう一人、男の子が同じように飛び付いてきた。
「「ママ、本当にありがとう~」」
二人は私の胸にぐりぐりと頭をこすりつける。
「なんのお礼?」
ふと聞くと、アルゴスと呼ばれていたプラチナの髪の毛をもつ男の子が答えてくれた。
「ママ、俺達に家族になる?って聞いただろ?」
「だから、僕らが契約のくちづけしたの」
「マルケスッ!!俺がママと話してるんだぞ!!邪魔するなよな!!」
「邪魔じゃないもん!!僕だって嬉しかったんだもん」
アルゴス君の言葉尻をとらえて続けた、マルケスと言うらしい蜂蜜色の髪の毛の男の子は怒られてションボリしている。慰めようと手を伸ばすと、悲鳴のように叫ぶ男性の声がした。
「お二人は召喚の儀式を行なったのですか!?」
「「うん」」
二人は揃って頷くと、優しそうな雰囲気の背の高い男性は傍に居た、これまた背の高い、だが、いかにも戦士!!といった男性に「陛下に報告してきます」と囁くと厳しい表情をしたまま立ち去った。
入れ代わりのように入って来た兵士達に抱えられて泣きわめきながら、マルケス君とアルゴス君も退場。
戦士のような屈強な男性と残された私は、いたたまれない心地で居た。どうしたものかと思っていると、男性はベッドの脇にあった椅子に腰掛け、私に視線を合わせた。恫喝されるかと、内心びくびくしていた私に、ぶっきらぼうではあったが、意外にも穏やかな口調で問いかけて来る。
「お前は契約がどういう物か知っていたのか?」
「いいえ。そもそも、私はこの状況が全くわからないので、ご存知でしたら、説明お願い出来ますか?申し遅れました。私、水無月 楓と申します」
出来るだけ下手に、だが伝えたい事は無礼にならないように心掛けて言って頭を下げた私に男性も頭を下げた。
「失礼。ソルゴスだ。詳しい話は陛下からなされるかと思うが、ミニャ、み、ミニャう?……」
私の名前を噛んでしまい、顔を真っ赤にして巨体を縮こめるソルゴスさんに、「ミーナで良い」と言うと再び頭を下げた。
「ミーナ。侍女に風呂場に案内させる。入浴後に陛下へ謁見願いたい」
「ありがとうございます」
礼を言う私に頷き返すとソルゴスさんも立ち去った。
「結局、なにも手掛かりなしかぁ」
今、与えられた情報は、アルゴス君とマルケス君が私と何らかの契約をしたらしい。と言う事と、「陛下」と呼ばれる存在が居り、尚且つ身を清めてからの謁見を求められた事から、ここは城か宮殿なのでは?という事くらいだ。
情報と言ってもどれも推測の域を出ないものばかりだが。