優しい時間 5
「うん。ラン君とリーン君は、とっても良い子だよ。オーシャンの大人があなたたちに良い子だよって言わなかったのは、言わなくてもわかるくらいに良い子だと思っているからだよ?」
「「え!?」」
思いを言葉にすると、ラン君とリーン君は、驚いて、目を何度かパチパチとした後で、おずおずと「みんなに聞きたい」と言ってくる。笑顔で頷くと、ほっとしたように表情をゆるめたラン君とリーン君に、アルゴス君とマルケス君も穏やかな雰囲気になっている。
「ちょっと待っててね〜」
あくまでつい、というスタンスをとった私は、鏡を裏返して、オーシャンの大人たちへ鋭い視線を飛ばす。基本的には、「こんな良い子達だってのに、不安にさせるとは何事か!!」の説教の意味で、「あんたたちのフォローをしてるんだから、踏みにじるなんて、否定なんてさせないからね!」の念押しも含んでいる。
オーシャンの大人たちもフォレストのみなさまも、なぜか顔をひきつらせてコクコクと素早く頭を上下に振っている。フリストさんなど、まさかまさかで私を拝んでいる。
うん?オーシャン組はわかるけど、なんでフォレスト組まで?
後でアルゴス君に告白されたのだが、このときの私は、「オシッコチビりそうになって、なんかわかんないけどごめんなさい!したくなった」ほどに恐ろしかったのだそうだ。実際、マルケス君はアルゴス君にがっちりしがみついていたことを考えれば、威圧的空気を身に纏っていたのだろう。どちらの子供たちにもそんな姿は見せたくなかったので、告白されて猛省した。
「またせてごめんね」
クルリと鏡をオーシャンの大人たちへ向けると緊張した面持ちの子供たちが居る。リーン君はラン君の腕をしっかりと握って微かに震えていた。
「ラン、リーン。ミーナ様の言う通りだ。わしはお前たちに言わずとも、大切だと、伝わっていると……ぉ……」
「「じいちゃま」」
「思っていた」と続けたかったのだろうフリストさんは、声をつまらせてしまう。そんな彼を呆然とした様子で見つめるラン君とリーン君は、大人は泣かない生き物だと思っていたのかもしれない。
「じいちゃま!泣くな!男は泣、泣が、ないっ、でぇ〜……」
「じっで、だぼ(知ってたもん)。ぼぐ、だっ、がぁ〜よ、いごっで、おぼっで、だっ、……じっでだっ、よぉぅ〜(ぼくたちが良い子だって思ってたって知ってたよ)」
フリストさんの耐える姿にラン君とリーン君の涙腺は崩壊している。それでも伝えたい思いを必死に言葉にする姿は胸があつくなる。フリストさんは泣きじゃくる子供たちを前に、居ても立ってもいられなくなったようで、私のもとへ駆け寄ると、鏡を両手で握りしめた。
「良い子だ!お前たちはとっても良い子だっ!!」
「「じいちゃま!!」」
ああ。ホントは、ラン君とリーン君をギュッて抱きしめたいんだろうな〜。
でも、良かった。少なくともフリストさんはラン君とリーン君が欲しいものを理解したくれたようだとほっこりしていると、両隣から盛大に鼻をかむ音が聞こえた。
「よ、よがっだ!ランもリーンも、よいごっで!!」
「ぅわ〜ん!!だん(ラン)、ディーン(リーン)〜」
うん。相手を思いやる気持ちがあるあなたたちもとても素敵だよ。