優しい時間 1
部屋に飛び込んできたアルゴス君とマルケス君は、受け入れる為にしゃがんだ私の胸に迷わず顔を埋めた。
「ママもビックリだぞ!?な!マルケス!」
「うん!あのね?ランとリーンがね?……」
胸にしがみついたままでぴょんぴょんと跳ねたアルゴス君とマルケス君は、手鏡を私に見せてきた。
ん!?
鏡の中には、黒い髪を長く伸ばした子供と、ダークグリーンの髪を同じく長く伸ばした子供が居た。その二人は申し訳なさそうなというか、泣き出しそうなというか、なんとも言えない表情をしている。アルゴス君とマルケス君が「楽しくて仕方がない」というような仕草でいるため、反比例効果で、彼らの哀れを誘う表情が際立っている。
これって、携帯電話みたいな「鏡」だよね?でも、この子達はどちら様かな?
私が疑問を口にするより一瞬速く、鏡の中の彼らが口を開いた。
「「アルゴス、マルケス……、……先に……」」
「「あ!そうだった」」
口ごもる彼らの言葉に私の胸から離れたアルゴス君とマルケス君は、オーシャン組の皆さんに鏡を向けた。
「ランとリーン?」
うわ〜。なんかフリストさんの雰囲気が冷たいな〜。お説教モード?
実行犯たちをお説教した時を彷彿させるフリストさんの姿に、鏡の中で気まずそうにしている「ラン君とリーン君」がなにかをしでかしてしまったのだろうと思う。対峙するアルゴス君とマルケス君も申し訳なさそうにしている。
フリストさんの様子にアルゴス君が焦ったように口を開いた。
「じーちゃん!あのな?ランとリーンはな?」
「ちゃんと謝ったよ?だからね?あの……」
アルゴス君に続いたマルケス君はしかし、フリストさんの雰囲気に飲まれたのか、うまく訴えることが出来ない。
そんな彼らの言葉には気になるものが何点かあった。まず、アルゴス君とマルケス君がフォローしたくなるほどに短時間に仲良くなったらしい彼らは、「謝ったから許してほしい何か」をラン君とリーン君はしてしまった。と判るが、それが何故にフリストさんをここまで怒らせたのか。
あ!鏡って大人しか携帯出来ないって言ってたよね?でも、ある。そこに何かある?
まさか、誰かの部屋に勝手に忍び込んで持ってきて、それを知ったからこそアルゴス君とマルケス君がかばっているのではないかと予想した時、ラン君とリーン君がキリッと表情を引き締めた。
「「アルゴス!マルケス!」」
呼ばれた子供たちもキリッと表情を引き締めて小さく頷いた。
「「ごめんなさい」」
「「ごめんなさい」」
ガバリと音がしそうな勢いで頭を下げたラン君とリーン君にアルゴス君とマルケス君が続いた。
四人のこどもの様子を黙って見ていたフリストさんは、小さく息を吐いた。
「ラン、リーン、それはなんに対してのごめんなさいだ?」
「あの……あの、……」
「全部!」
ダークグリーンの髪の子が口ごもると被せるように黒い髪の子が叫んだ。
「全部」って、と微笑ましさを感じると同時に強い兄弟愛についつい口許がゆるむ。
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