二国会議二日目 4
「フリスト様。どうかお腰を上げてください」
言えば、フリストさんは小さく顔を横に振ってうつむいた。その仕草に声にならない言葉が溢れてくる。「オーシャン代表として来ていながら、フォレストの皆に取り返しのつかない事をした。自分自身がしたわけでないにせよ、許されはしないのだ」と。見る者総ての心を引き裂く彼の姿に、私は鬼になり、嫌な言葉で彼の顔を上げさせることにした。
「フリスト様。貴方を裁ける者はいないのですよ?アルゴス様とマルケス様は許されました。第一、貴方は誰にも害をなしてはいないではありませんか。そんな貴方をこれ以上、どなたがせめられましょう」
そう。こんなにも責任を感じているフリストさんに、「許した当人を置いてさらに続けるなんて、子供達の気持ちを裏切る行為だからね!?判ってるんでしょうね?」と、ぶっちゃけた。
ああ。なんてイヤなヤツ!我ながら高飛車過ぎて引くわ〜。って、あれ!?
「ミー、ナ、さ、まっ!」
「貴方は何も悪いことはしていないんだから、もうやめよう?」と一見優しく感じるようにはしているものの、目上の彼にとんでもなく上から物を言い、王様をも差し置いた無礼過ぎる自分に対して、フリストさんはガバリと音がしそうな勢いで顔を上げると、そのまま私の手を握り締めて感極まったように何度も頷いていた。
ヤバイ。間違えた。
顔をあげてもらうと言う目標を無事に達成したのは喜ばしいが、着地点が違うことに営業を仕事にしていた私はモヤモヤした。
「嫌なやつを演じようとしたら真逆の良い人と見られました」は、一見、良いことに感じるが、今回はたまたま成功したが毎回こうはいかないはずだ。あやふやな成功の上の技巧などなんの意味もない。いや、反省の糧にはなるか。
そんなわけで私は営業人として、目測を誤った事にモヤモヤしているのである。
「申し訳ありませんでした」
「本当に申し訳ありませんでした」
「フリスト様ではありませんっ。罰せられるは我らだけです。本当に申し訳ありません」
モヤモヤを抱いている私の意識をよそに、自分が仕出かした事の重大さをようやく認識したらしい、オーシャンの実行犯達がフリストさんの背後で土下座しながら謝罪の言葉を口にした。
よし!場合によってはコイツらを潰そう!八つ当たりだけど〜。
こころのなかで悪魔の尻尾を揺らして思いながら彼らを観察して、少し意地悪な評価を下げた。実行犯たちは本当に謝罪をしていたのだ。
「謝罪に本当も嘘もあるか」と言われそうだが、「心からのものかどうかで変わる」と返したい。謝罪を受ける側として想像して欲しい。変に語尾が間延びしていたり、態度が不真面目だったり、
表情に隠しきれていない笑みが浮かんでいたりしたらどうだろうか?
「本当にすまないと思っているのか?」と感じるのではないだろうか。これがあるかないかでも、私は本当の謝罪かどうかの判断材料としている。
話がそれたが、今は彼らである。