困惑と謝罪 4
大人はどうあれ、謀略とは程遠いところにいるアルゴス君とマルケス君の無邪気な様子に、オーシャン組の中に約三名ほど青ざめて震えている者が居た。恐らく彼等が今回の首謀者なのだろうが、王様も匂わせた通り、この場で糾弾するつもりはない。子供たちを脅かした罰には到底生ぬるいが、疑念の視線にさらされ、何を食べたかもよくわからないままに後悔の念にうち震えれば良いと思う私はやはり汚い大人なのだろう。アルゴス君とマルケス君がこの場に居なければこちらが有利と思わせたまま徹底的に舌戦で攻撃してやるのにと歯がゆい。
私が標的だとあの時はわからなかったし、アレスさんがうまく誘導してくれたから子供たちに必要以上の恐怖を味あわせることなくすんだが、彼の機転がなければどうなっていたことか。
あ〜!!やっつけたい!!腕力ないから、口と頭脳でやっつけたい!!
ディーバさんが侍女さんに何事かを言うと、頷いた彼女は静かに姿を消した。大分落ち着いた雰囲気になった為に、朝食のセットを申し付けたのだろう。くふくふと笑っている子供たちに始祖様が口を開いた。
「大人は他国と交流はあっても、子供はなかったもんな」
「はい。でも、カブトムシでみんなニコニコなんだ」
「もうちょっとしたら、綺麗な木の実とかあげたら喜ぶかも〜。ドングリとか帽子被ってるともっと可愛くなるし」
私の黒い感情を知るよしもない子供たちは嬉しそうに始祖様に答えている。彼等に気取られる前に感情を切り換えなければいけない。出来れば子供たちには二心ではなく本心で向き合っていきたいからだ。
「子供のクルクルだな」
「わぁ〜。そうだね〜。お手紙、ずっとず〜っとクルクル出来ると嬉しいね〜」
「大人のクルクルはお金を使うけど、子供のクルクルはお手紙だ」
顔を見ていていないにも関わらず、自分たちと同じくらいの獣族と出会った事がなかったらしい子供たちは本当に嬉しそうだ。これを機会に三国の子供たちが親交を深めるのも良いかもしれない。自分は子供が好きでも嫌いでもないというスタンスだったはずだが、たくさんの子供に囲まれて笑っている様子が思い浮かび、自然に口許が緩んだ。
「あの……、くるくるとはなんのことでしょうか?」
「貿易の事です。物の流れをアルゴス様とマルケス様はそう理解しております」
「お金、くるくると回るだろ?」
「そうなの。何か買うためにお金を誰かに渡して、僕たちから受け取った人が違う誰かに渡して、ね?」
「「クルクル〜」」
おずおずシェリスさんが問えば、ディーバさんが答え、アルゴス君とマルケス君が続いた。オーシャンの無実組は一様に感心したように頷いているが、フリストさんだけが感情を抑えているのか体を震わせていて、心なしか目が潤んでいる。
うん。フリストさんもディーバさんと同じく感激屋さんだね。
「なんと賢くお優しい」
クッと息を飲んでとうとう目頭を押さえたフリストさんに子供たちが思わずといった感じで慌てたように駆け寄る。
「じーちゃん、どうした?カブトムシ欲しいのか?いっぱい居るからあげるぞ?あ、クワガタが良い?じーちゃんも一緒にクルクルしよ」
「仲間はずれにしないから泣かないで〜。僕も泣きたくなっちゃうよぉ」
返事が出来ずにただただ頷くフリストさんに、アルゴス君とマルケス君は小さな手でいつまでも彼を撫で続けていた。