困惑と謝罪 2
「なんか、俺、見ててチビりそうになった」
「うん。なにも言わないで、ビッてここ指差してね?全員が入るまで睨んでたの」
なんとはなしに脳裏に浮かんだのは、飼い犬に主が「ハウス」を命じているシーンだった。ある意味、躾と言う点では間違ってはいないだろう。躾に必要なのは愛情と気迫だ。
「俺たちは視野に入ってなかったみてーだけど、釣られて入っちまった」
「「けど、リオ兄が怖かったからすぐ出たよ」」
ブルッと体を震わせてから「だって、こんなでこんなだよ?」と再び仁王立ちする子供たちはリオさんの真似だろう無表情で私たちを見つめてくる。子供のアルゴス君とマルケス君だからこそ可愛らしいなですむが、大人で敬愛するリオさんのそれは負い目のあるオーシャンの使者団からすれば自業自得とはいえ、さぞや恐ろしかっただろう。
「でも、マジで腹減ってるから入んね?多分、アイツはミーナちゃん達が来るまで威圧してんだろうしさ」
「ママとアレスが居れば怖くないよな」
「そうだね〜。アレスは強いもんね〜。ランティスもソルゴスも居るから全然怖くないね〜」
子供は意識の切り替えが早いとはよく言ったもので、くふくふと笑っている二人からはつい先程の怯えは微塵も見えなかったが、心のどこかでは不安を感じていたのか、私ではなく、アルゴス君はソルゴスさんと、マルケス君はアレスさんと手をつないでいる。
いや、うん。仕方ないことなんだろうけど、なんか寂しいなぁ。
なんとなく手をワキワキさせると、私の心情に気付いたらしい始祖様が「俺で良い?」と握ろうとしてきた所をシュリさんがさっと阻み、なぜか彼女と手をつないでの入室となってしまった。
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「申し訳ありません」
「ひょ!?」
「わ!?」
入室した途端、響き渡った声に驚いたアルゴス君はソルゴスさんの足にしがみつき、マルケス君はアレスさんの手をギュッと握りしめた。そして私たちの目に飛び込んできたのは、子供たちの言う通り、仁王立ちしているリオさんと老いも若いも関係無く綺麗に土下座するオーシャンの使者団の姿だった。
「申し訳って、ごめんってことだよな?」
「うん。すっごくごめんなさい、だったはずだよ」
目を丸くしながら言うアルゴス君にマルケス君が答えていると、リオさんが口を開いた。
「アルゴス、マルケス、良い子、夜、怖い、した。オーシャン、謝る、当然」
その言葉に、一部の使者の体がビクリと大きく揺れる。恐らく彼等が今回の騒ぎの首謀者なのだろう。
「アレスがしゅぴってしたから怖くなかったぞ?」
言っている内に昨夜の興奮を思い出したのか、アルゴス君が繋いでいる手と反対の腕を振り回した。
「芋虫になったの、オーシャンの人なの?」
チラリと視線をアレスさんに移したマルケス君はアレスさんが微笑んだ事に力を得たのか、ほっとしたようにリオさんを見る。
「ん。悪者、オーシャン」
「だから、申し訳なのか」
「僕たちは良いよ。ごめんなさいしたから、良いよ。ね?アルゴス」
「うん。後は大人のお話ってヤツだもんな」
「ぶっふ……っ」
意味が分かっているのかいないのか、はたまたそのフレーズを使いたかっただけなのか、アルゴス君の言葉に始祖様が吹き出した。それに釣られるように笑いだした私たちの頭からは、どんな状況にいるのかなど吹き飛んでいた。