困惑と謝罪 1
こちらとしては、後手となるがオーシャンの出方により対応し、逃げるようなら徹底的に追求するとまとまり、部屋に向かうと、ニヤニヤしている始祖様とオロオロしている子供たちが扉の前に居た。リオさんの姿は見えない。
「どうしたの?入らないの?」
「「ママ!!」」
声をかけた私の姿を確認した子供たちはパッと顔を輝かせて飛び付いてきた。
「入りたいけど入れないんだ」
「うん。なんか怖いの」
「怖い?」
「あっちのがな、威圧中」
顔をしかめたり唇を尖らせて言う子供たちにおうむ返しに聞けば、始祖様が答えてくれた。説教中ではなく威圧中とはどういう事だろうと首を傾げた私に始祖様はニヤリと笑った。
「俺みたいなのは離れると分からなくなるみたいで、チビたちの言葉で昨夜の事を知ってな?」
「俺たち、昨日、アレスに言われてカブトムシゴッコしたって教えたんだ」
「アレスがかっこよかったって言ったら、リオ兄がオーシャンのみんなの前に行ってこんなんしたの」
子供たちがリオさんの真似だろう仁王立ちをするのを微笑ましく見る半面、落とされた爆弾にパニックに陥りそうだ。リオさんがオーシャンの始祖様とは知らない子供たちの手前、ぼかして告げてはいるが、軽い口調で「その国の王族の母なる存在から他国へ移動すると始祖様は知識を受け取れない」と重大な事実を匂わせたのだ。どんなに親機たる母なる存在が情報を発信しても、物理的に受信区域から離れてしまえば、子機たる始祖様たちは庇護下から外れて恩恵に預かれないという事になりそうだ。母国に帰れば、知識が一気に彼等に流れ込むのかどうかは、今はまだ誰にも分からない。
「それは……」
思わず溢した王様をチラリと見た始祖様はコミカルな動きで自分の腹を擦った。
「そんなわけで、おっかねぇから出てきたんだけど、俺たち腹ペコなんだよ〜」
「この場で話すことはない」と言外に言われた私たちは、わかるか分からないかくらいにかすかに頷いた。アルゴス君とマルケス君はブルッと体を震わせて顔をしかめて口を開く。
「俺、コラッて言われる方がマシ」
「うん。僕も。リオ兄は何にも言わないの。でも、相手が何か言うと、で?って言って黙るの」
そりゃ怖い。大人の私でも逃げたくなるわ。
無口と言うか片言で話すリオさんが、反論も弁解も許さずにただただ自分たちを見つめてくるのだ。普段の様子からしても、無表情、無言で彼等を糾弾しているだろう事は想像にかたくない。
アルゴス君の言う通り、怒られたりなどの感情を見せてもらった方がマシである。
「オーシャンの使者団は先に入室していたのか?」
あ!!そうだ。そこ気になるよね。
常識として、ホスト側が招待客をお出迎えするべきなのに、それを出来なかった。というのは後々問題になりそうだ。だが、王様の聞き方は、「ホストの許可なく入室するなんて無礼な」というニュアンスが強かった。子供たちに聞いたのだろう王様に始祖様は苦笑しながら口を開く。
「ちょっと違う。チビたちの話をきいたヤツが静かにキレて手近なここで説教始めたってのが正解」
始祖様の言葉に、神妙な表情をしてうんうんと頷きながら子供たちが続く。